第11話 白昼のゴーストライダー
知はオルゴールに囲まれていた。独特のメーカーロゴ。
ミュージアムショップに入る。販売用だから大した物はないがキラキラと輝く小さな音の心臓達は知のハートを掴んで
「いけない、今日はここで」
どこまでも心地好い空間を脱しパーキングを目指す。知のNSR以外にも数台、単車が置かれているが当地では珍しいことではないので知が気に留めることもない。知はキックを踏み下ろすと街へ帰る、はずだった。
「後ろからなにか来る」
ミラーに目をやる知。赤い異国の機体が映っていた。
「今、そんな気分じゃないのよ」
知は左に寄り速度を落とした。傭兵は遠慮がちに脇を抜けグローブにピースサインを掲げる。
彼を視界の隅に置き、なぜか軌跡を踏み続ける知。夢が現実へ変わりつつあるかの感覚に陥る。
「キレるな」
歯切れが良いのは排気音だけではなかった。得体の知れないなにかに惹き込まれていく知。意識とは裏腹に「表」へ折れるはずだった
「追走は終わり」
知は
いつもより控えめに、そしてリズミカルにコーナーを刻みつつ気配を
「離れないわね」
ややペースを上げる知。未だ余裕を残してはいるがタイヤの接地面は徐々に端部へ向かう。
「よし」
車間を保ち続ける後続に引導を渡すべくスロットルに力を込める。
「未だ来るの?」
白氷の本能に火が点いた。容赦ない排気音が木霊する。
「流石にもう諦めたかしら」
ホームコースで牙を剥いた白氷に敵う相手はそういない。たとえそれが異国の大排気量車であっても。
知は汗を感じたので植物園前に停まった。少しの時を挟んで「相手」が寄り添うように停車する。よく観察するとさっき、オルゴールの前にあったヘルメットだ。
「速いっすね」
いきなり挨拶もなしか。知は答えずあしらう。
「若いのにお金持ちね」
「金なんか無いっす、十万で買いました」
「ドカが十万な訳ないでしょ」
「四百っす」
道理で身のこなしが軽いはずだ。
「いやー直すの大変でした」
「よくここ、走ってるの?」
「いや、初めてっす。道は楽しいし上の方は景色もいいし、最高っすね」
後ろを付いてきたとはいえ未経験のルートであの切り返しを見せるのか。それにエルツインの四百は至って出力が低いはずだ。知は驚きと共に大きな関心を抱いたが表情は抑えた。
「地元の方っすか?」
「そうよ、それがなにか?」
「いや、凄いな、と思って」
「凄いって?」
「速いっす!」
最初に戻ってしまった。
戸惑っている知の前を灼眼が
「あなた、あれに付いていったら、
「そうっすか! それなら行くっす!」
目が醒めるような転回を行うと彼は本当に灼眼を追いに入った。
「マジ?! でも面白そう」
知が唐突にクラッチを繋ぐ。NSRの後輪は白煙を上げる。
「何者? 一回、下っただけで全部、覚えてるの?!」
灼眼を先頭に三台が舞う。小刀にも小ドカにもパワーは無いので上りは苦しいはず。しかし前方の二者は知に気を抜かせないほど迅速にコーナーを処理していく。
息つく暇もなく牧場に達し、灼眼のカタナがスローダウンする。正体不明の彼はそれを無視するかの如く突き進む。知も途中まで背中を見続けたが「これ以上は危険」という良心の声に従った。
消えた後ろ姿を胸に「表」を流す知。辿り着く先はガレージだ。
「こんちわ、あ、もう夕方か」
「あぁ」
繰り返しても相槌以外は響かないので早速、話を振る。
「店長、ドカの四百って速いの?」
「四百? SSか?」
「そうSS」
「知らんなぁ。まぁ、どんなバイクでも乗り手次第だろうなぁ」
期待通り「期待した快答」は得られなかった。
黙って顎を抱える知をクリーパーから見上げる店主。
「よぉ、山に不思議は付き物だぜ。謎は謎のままでいいんじゃないの?」
「謎は謎のまま、夢は夢のまま、か」
「なにそれ?」
「なんでもない」
休みだったのかそうでなかったのか。いつも賑やかな知に峠の
(注意) 当然ですが拙いフィクションです。公道は法規遵守で利用しましょう。また不必要な空吹かしなどは迷惑です。節度を持って乗り物に接しましょう。現実のバイク屋さん、二輪車取扱店、ディーラー、店員さんとも失礼に当たらない距離感を保ちましょう。
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