第十一話 親友
プレディクション。白魔法で、予知をする魔法。私が分類した五属性以外の魔法。白魔法の中にも、時間魔法、空間魔法を含む、物理魔法があるのだが、それに含まれるかはわからない。研究をできなくなったから仕方ない。
五月は、「予知することを想像」しながら、「プレディクション」と唱えたところ、なにかを見て、それをそのままの光景で見たという。五月が話してくれたのは一回だけだが、「プレディクション」と何度も唱えていたこと、試験後の様子のおかしさを見ると、試験の問題も見てしまったのだと思う。
デジャビュだと思いたい。
ただ、五月が未来を見た方法が、魔法の使い方そのものだった。それが二回もとなると、魔法を使えるようになったと考えてもおかしくない。たまたまかもしれないが、狙って使えるようになったら、魔法と言わざるを得ないだろう。それがいいことなのかはわからない。
でも、疑問が残る。
それならば、なぜ、源家は
つまり、魔法は滅びたはずだ。
それは本来、ありえないことなのだ。確かに私は桜月に魔法が使えなくなる条件を話したが、それはその人だけに起こるもの。子供に遺伝などしない。血が薄くなったからかもしれないが、それを証明する手段はないし、そもそもそうであるならば、桜月の娘の
何か、あるのではないだろうか。もしかしたら、源家だけに伝わるものがあるのかもしれない。
そうなると、桜空伝に何か書かれているのではないだろうか。
でも私には何もできない。それがもどかしい。
五月、ごめんなさい。
※
ふと窓を見る。鉛色の空。日が差し込まず、どこか薄暗い。
何か、重苦しい空気を感じている。
それはそうだ。いまだにいじめが続いているのだから。
最初は無視やひそひそ話だけで、まだましだった。こっちに害が加わるだけではないのだから。しかし、九月ごろから物がなくなるということが起こるようになった。それが続き、いじめを受けているという実感がわいた。その頻度はだんだんと増え、この頃は毎日続くようになっていた。そうなると、見つからなくなるものも出始める。特に、五月が「プレディクション」で試験の問題を見てしまって、その結果が返されてから、
そんな五月を、かなちゃんとマリリンは励まし続けた。しかし、クラスの連中はその二人でさえもいじめの標的にし、三人は辟易としていた。そして、十二月に入って数日たった今日、三人は担任の教員に相談をすることにし、職員室を訪ねた。
「どうしたんだ、三人そろって。あとちょっとでホームルームなんだが、そのあとじゃいかないのか」
いかにも面倒そうな態度が伝わってくる。誠実に対応してくれるか不安だが、学校のことに関しては教員に相談するしかなく、教員を信じるしかない。
かなちゃんとマリリンに一度振り返ってから、五月は口を開いた。
「はい。もし教室で話すと、あいつらの耳に入りますので。
……実はわたしたち、いじめを受けているんです。クラスの連中から。無視とか、ひそひそ話とか、そういうのから始まったんです。それだけだったら最悪我慢すればいいかもしれないですけど、物がなくなるようになってしまって。あいつらに聞いても、しらばっくれるだけ。最初はわたしだけだったんですけど、それがひどくなって、佳菜子ちゃんと麻利亜ちゃんがとばったちりを受けるようになって、どんどんエスカレートして……。クラス全体がわたしたちをいたぶるんです。
もう、嫌なんです。いわれのないことをこじつけられて、クラスの連中からもいじめられて、親友まで巻き込まれて。
なんで、こんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか? なんで、みんなわたしを甚振るんですか? なんで、親友も巻き込まれなきゃいけないんですか……?
もう、耐えられないんです……。嫌なんです……。つらいんです……。
だから……、お願い、です。どうか、先生が、この、いじめを、どうにかして、くれませんか……?」
憎悪でいっぱいだったのが、話しているうちに今までのつらさを思い出してしまい、最後には涙ながらに、五月は教員に訴えた。
「五月……」
思わずかなちゃんは五月の名前を無意識のうちに声に出しながら、五月に顔を向ける。マリリンも同様だった。強気な態度を見せるいつもの五月からは、考えられないくらい、五月は弱々しく見えたからだった。これまで聞いてきた五月の過去からも考えると、五月の傷は、完全に癒すのが困難なほど深いのだと、かなちゃんとマリリンはあらためて痛感した。
そんな五月の思いは、教員の心を打った。
「……なに被害者面してんだ、こいつは。ほんと、腹立つわ、このクソガキ」
そんな想像は、あっけなく散る。
「さっきから聞いていれば。てめえ、全部人のせいにしてんじゃねえか。挙句の果てに、めそめそと。俺がカンニングの話を知らねえとでも思ってんのか? 証拠が残らないからっていい気になりやがって。そんなに魔法は便利なのですか、『源神社』の『巫女』様?
……ふざけんのもいい加減にしろよ」
「……えっ?」
予想外の、そして五月を揶揄する発言に、戸惑うことしかできず、何も考えられなくて、反論もできなかった。
「……だんまりかよ。やっぱりな。そんなんじゃ、いじめを受けんのは、当たり前じゃねえか。
おい、……こんな言葉知ってるか? 『自業自得』ってやつだよ。てめえが疑われるようなことすっからいじめられんだろうが。全部、てめえの責任なんだよ。それなのに余計な仕事増やさせんじゃねえよ。ったく、なんだ、あの、『イワキダイキ』とかいうやつは。しょっちゅう学校に来て迷惑してんだよ。それも、てめえがまいた種だろうが。この学校は田舎のほうにある学校とはいえ、てめえがまいた種のせいで学校の印象が悪くなったり、余計な仕事が増えんのは迷惑でしかねえ。その種をまいた罰がいじめってんなら、ちょうどいいんじゃねえか。あっはっはっは。
……失せな、このクソガキ」
教員の言葉一つ一つが、五月の、かなちゃんとマリリンの心を蝕む。
味方だと思っていた。親身になってくれると思っていた。助けてくれると思っていた。
しかし、教員からは、悪意しか伝わってこない。
すべての責任を五月に押し付けて。面倒なことから逃げて。自分可愛さからの行動しかしなくて。
そんな教員に、失望するのは当然だった。
怒りさえ感じる。結局は、五月たちをいじめる加美山たちと同じような奴だったのだ。
「ふざけんな、てめえ!」
だからこそ、かなちゃんが激高して、教員の胸ぐらをつかむのは、当然のように思えた。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、ずいぶんと自分勝手にほざきやがって!
何が迷惑だ? 何が自業自得だ? 五月がしでかしたことなんか、何もありゃしねえに決まってんだろ、このくそ野郎! 教員なんだから、五月を助けろよ!」
しかし、かなちゃんに乱暴されても、教員に焦る様子はなかった。
それどころか。
「君たち! いい加減にしなさい。これ以上の乱暴は、親御さんを呼び出したり、処分を下したりすることになるよ!」
別の教員から横やりが入る始末だった。
五月たちの見方は、いなかった。
「……もう、いいです」
だから、五月は教員たちに、学校の連中に、何を話しても無駄だと悟った。
「教室に戻ろ、かなちゃん、マリリン。こんな連中と話しても無駄だよ」
結局、教員や、イワキダイキのような大人は、自分のことしか考えてないだろうか。最初は何かしようとしていたかもしれない。でも、時が経つにつれてそれを忘れて、自分の利益ばかり追求する。だから本来目を向けるべきことに目を向けられない。
教員たちは、所詮、イワキダイキと同じような、加美山たちと同じような、屑でしかないのだ。
イワキダイキと同じような奴ならば、話しても無駄なだけだった。
「でも、五月……」
マリリンが口を挟もうとする。五月はそれを遮るように言った。
「大丈夫。こんな連中と話してても意味ないし疲れるしイライラするし。なにより、かなちゃんとマリリンが嫌な目に合うほうが嫌だし。それに、……魔法の話なんて聞きたくないし」
教員は魔法でのカンニングを疑って、それを攻撃材料にした。
それに反論して、教員に謝罪させたい気持ちもあるが、それはできない。
ある意味、事故で見てしまったのだから。
その事実が重くのしかかり、否定することができない。
魔法のことがよくわからないから仕方ないといえるかもしれない。でも、見てしまった事実は変わらず、教員への反撃は無理だった。
魔法で見えてしまったことは、かなちゃん、マリリンだけでなく、だれにも言っていない。
……イワキダイキからの攻撃のきっかけを摘むためだった。
でも、結局は、味方であるべき教員を、敵に回した。
それは、「魔法」があるから。
そんな「魔法」の話など、聞きたくない。
かなちゃんとマリリンに聞かせたくない。
気が滅入るだけだから。
「お騒がせして、申し訳ございませんでした。失礼します」
そう言って、半ば強引に、投げやりに、かなちゃんとマリリンを連れて、職員室から去った。
「五月、なんであきらめちゃうんだよ。何も悪くないでしょ?」
かなちゃんが引き留めようとする。
「……ごめんね。もう、これ以上あいつらと関わりたくないの。それに、魔法の話をしたくない。かなちゃんとマリリンにも。
だから、もう、あきらめたの。耐えるほうがいいと思ったの。これ以上何か言っても、つらいことを思い出して、またつらい思いをして。その繰り返し。
そうなるよりは、かなちゃんと、マリリンと、わたしとでだけで過ごして、励ましあう、今まで通りのやり方のほうが、いいと思うの。
いじめはなくならないよ。むしろ教員まで加担するかもしれないよ。
でも、もう、疲れたの。あいつらに刃向かうのが。だったら、今ある小さな幸せに浸りたい、守りたい。
そうやって、耐えて、落ち着くのを待つ。落ち着かなかったら、あいつらが行かないような高校に行って、二度と会わないようにする。あいつらが行かないようなところだから、千渡村のことを知っている人は多分全然いない。だからそこでは村の話やこの学校の話、魔法の話をしない。そうすれば、こんな目からはおさらばできると思うの。
だから、みんなで耐えよう? もう、それしかないよ」
耐えて、落ち着けば、落ち着かなくてもここから逃げれば、普通の生活、普通の日常、普通の幸せに至れるのではないか。そんな風に思う。
それがかつて両親を失った時のように、楓や雪奈たちを失った時のように、あっけなく失うようなもろい幸せであっても、今よりもましなのではないだろうか。
「……ねえ、五月。耐えて待つくらいだったら、最初から逃げてもいいんじゃない?」
マリリンが徐に口を開いた。
「五月が今言ったのって、五月が苦しむ道なんだよ。でも、そこまでしなくても、ここに来ないっていうのも、ありなんじゃないの? ワタシ、五月が傷つくところを見るのは、嫌だよ……」
かなちゃんも続く。
「麻利亜の言うとおりだよ、五月。苦しむくらいだったら、ここに来なきゃいいんだよ!」
二人が気遣ってくれているのがよくわかる。
こんなに思ってもらえて、こんなに思ってくれる人が、ズッ友で、親友なのが、とてもありがたい。
でも。
その気遣いを無下にしなくてはいけない理由が、五月にはあった。
「……ありがと。でもそれって、わたしに不登校になれってことでしょ?
……それは、できないの」
「なんで! こんなに五月が苦しんでるのに、なんで逃げちゃダメなのさ? 転校とかの方法だってあるでしょ?」
五月の言葉を聞いて、思わずかなちゃんは声を荒げてしまう。
そう。
普通の人ならば、逃げればいいのだ。逃げていいのだ。
普通の人ならば、である。
「……わたしは、『源』五月。千渡村の御三家、源家当主。そして、形式的には村の代表なのは暁家だけど、実質的には源家が村の代表であり、象徴。だからこそ、源家がわたし一人だけで誰かに養われなくてはならないことになったときに、暁家がその役目を負ったの。もちろん暁家の血に源家の血が入っていることもあるけど、本質的には先に言ったほうの理由になるの。
そんな身だからこそ、逃げるわけにはいかない。村人が不安になったり、御三家中心に成り立っている今の村に、疑問の声が出たりしかねない。そうなると、ただでさえ過疎の村が、潰れてしまいかねないの。そんな事態を、断じて招いてはいけないの。
転校する、というのは頭から抜けていたけど、これもだめ。転校すると、いい意味でも悪い意味でも目立つ。そして、前の学校のことや、転校の理由を聞かれる。うまくごまかせられればいいけど、できなかったら、不信感を抱かせて、かえって不利な事態になりかねないと思うの。最悪の場合、災厄を持ち込まれたとか言われて、今よりもひどいいじめが起きるかもしれない。なにより、かなちゃんとマリリンとなるべく長い時間いたいけど、二人を巻き込んで転校するのは、ご両親が黙ってないと思うの。
だから……、結局、今まで通り、耐えるしかないと思う」
源家当主。そのことが重くのしかかる。
自分のことだけ考えればいいような立場ではない。村人のことを考えなくてはいけない。
そんな役目があるからこそ、不登校というレッテルを張られたくない。世間的にはマイナスのイメージしかない不登校にはなりたくない。
転校。考えもしなかったが、結局これにはリスクがある。何よりかなちゃんとマリリンとの時間が少なくなるか、経済的な負担などを与えるかの択になる。自分のためにそんなことをしたくない。
そのことが、かなちゃんとマリリンに伝わった。
「そっか……。確かに、耐えるしか、ないみたいだね……」
マリリンがそうこぼす。かなちゃんも同じ気持ちだった。
結局、何をしても、不幸にしかつながってなくて。その中でもましだったのは。
耐えること。
そう、三人は思った。
「じゃあ、ズッ友三人、今後はこれまで以上に、仲良くやろう。
みんなで乗り越えよう。こんな理不尽から。
大丈夫だよ。
あたしたちは、ズッ友で、親友だから。それは揺るがないから。励ましあっていこう。
あたしたちは、絶対乗り越えられる」
かなちゃんが、冷え切った空気を鼓舞しようと声を出してくれる。
「頑張ろう、五月。ワタシたちだって、五月と一緒じゃなきゃ、嫌なんだから。ワタシたちは、五月とズッ友だから。
ずっと、一緒にいるよ」
マリリンが一緒にいると言ってくれる。
二人とも、五月の大切なズッ友、親友、宝物だった。
「ありがとう、かなちゃん、マリリン」
大丈夫。
三人でなら、乗り越えられる。
どうか、不幸の連鎖が、終わりますように。
そう願わざるを得なかった。
※
「プレディクション」
自分の部屋で五月は「プレディクション」を唱える。しかし、頭の中に映像はなかなか入らない。失敗だった。
五月は、今まで通り学校に通っていた。いじめはなくなる気配がなかったが、かなちゃんとマリリンとともに、励ましあいながら耐えていた。
しかし、それ以外の不安もあった。
魔法だ。
今まで、「プレディクション」と唱えて何回か成功することがあった。夢の中では、「アクアアロー」を使ったこともある。いずれもその呪文を唱えることで魔法を使用していたが、「無意識のうちに魔法を使ってしまうのではないか」、「魔法を制御できなくなるのではないか」という不安が徐々に強くなった。
一度その不安を覚えると、それにとらわれるようになり、その不安を打ち消すために、制御できるようになるために、万が一の時に備えるために、まずは周りに悟られにくいと思われる、「プレディクション」の練習を、五月は自分の部屋でするようになった。始めは成功することはなく、たまたま夢で見た光景が現実でも起こったと思っていたが、次第に成功するようになり、今までの予知が偶然ではないことを裏付けるように感じ、五月は魔法が実在すること、自分が魔法を使えることを確信していた。
そのことは、かなちゃんやマリリン、お義母さんやゆかりにも話さなかった。話しても受け止めてくれるとは思うのだが、抽象的な魔法のため、説明が難しく、魔法があり、五月が使えることを理解するのが困難だと考えたからだが、それ以上に、みんなが裏切るという、ありえないことが怖かったのだ。
それに、話した後でイワキダイキの連中に魔法や千渡村、五月のことを勘ぐられたときに、動揺しないとも言えず、その場合、さらに状況が悪化することを容易に想像できたからであった。
しかし、サラには話していた。五月以外には見聞きできず、五月でも触れられないために誰かと関わることができないうえ、そもそも五月の部屋によくいるようになったためで、五月が「プレディクション」の練習する光景を見ていた。そのようなことがあったため、サラは五月が魔法を使えることを知ったのである。
そのため、正体がわからないサラを不審には思っていたのだが、魔法に関してはサラに相談するようになっていた。
「どうですか、見えましたか?」
サラが聞いてくる。
「ううん、見えない。また失敗したみたい。もうちょっとやってみる」
それにサラは異を唱えた。
「無理は禁物です。体は疲れてないですか? もし感じてなくても、魔法が体に悪いものかもしれないので、休み休みやった方がいいですよ。それに、あと少しで佳菜子と麻利亜が来ますよ。もしその時に予知が続いてたら、ちょっと大変なことになるんじゃないですか?」
その通りだった。下手をしたら、二人だけでなく、お義母さんにもばれる。
今日は、クリスマス。そのパーティーを五月の家でやろうという話になっていた。
「うん、わかった。これぐらいにしておく。でも、サラ。なんで魔法があっても平気な顔をしてるの? 魔法があったことを知ってたの?」
五月はサラの目を見る。その目は、何を考えているのか、少しさみしそうだった。
「実際に五月が使ってしまいましたからね、信じざるを得ないです。それに、こういうことを相談できる私が怖がって五月と離れたら、五月はこれを一人で抱えなければならないです。それで苦しむのが嫌なんです。それに、今までの五月の不幸は、魔法を使えたらもしかしたら防げたかもしれないと思うんです。そう思うと、魔法があった方がいいのかなとも思うんです」
サラの言うことは本当のように見えた。確かに、魔法のようなものがあれば、お父さんとお母さんや、楓と雪奈たちが死ぬことはなかったかもしれない。祟りだと言われるような現象を防げて、イワキダイキのような奴に付きまとわれずに済んだかもしれない。学校にふつうに通えたかもしれない。それは仮定の話で、いまさら考えても仕方のないことではあったが、少しでも不幸にならない手助けになればと思って、五月は練習していた。
そんな五月が魔法を使えるようになりつつあるのを、サラが認めてくれてうれしく思う一方、以前のサラの様子が気になり、聞いてはいけないとは思いながらも、口を開いた。
「じゃあ、サラは、なんで、『プレディクション』と唱えたら未来が見えたのですか、という風に前言ったの? 何か知っているようにしか見えなかったんだけど」
サラは、それを聞いても、表情を変えない。なにを考えているのかが、わからなかった。
「いいえ、知らないです。魔法を使っている人を見たことがないので、呪文も知る由がありません。魔法を使ったのは、五月が初めてだと思います。それに、さっきの話と相反することのようですけど、魔法はない方がいいようにも思うのです」
魔法があった方がいいと思っているのに、ない方がいいとも思っている。サラの言うとおり相反していて、五月は混乱する。
「どういうこと?」
「イワキダイキのことです。あいつは魔法に付け込んで、面白おかしく記事をでっち上げました。結果的に、五月だけでなく、佳菜子や麻利亜、ゆかりたちとかを傷つけることになりました。それは魔法があったから。魔法のせいでみんな苦しんでいる。だったら魔法がない方がいいんじゃないかなと思うんです。伝説にある以上どうしようもないですけど、もし、なかったら、みんなこんなに苦しむことはなかったと思います」
サラの言うことに嘘があるようには思えない。あの時の反応はたまたまだったのかと五月は思った。魔法があったからこそ、イワキダイキに付きまとわれ、学校でいじめられるようになった。魔法がなかったら、そんなことは起きなかったかもしれない。余計な苦しみはなかったかもしれない。
しかし、魔法がなかったとしても、お父さんとお母さんや楓と雪奈たちと別れることになるのは変わらなかった。魔法のあるなしに関わらず、五月の不幸を防げてなかった。
そのことをサラに話すと、表情が暗くなった。
「そう、ですね……。たしかに、魔法のあるなしは関係ないかもしれないですね……。それでは、五月」
サラは五月を正面から見つめる。その目線は五月を射抜き、五月は身動きできない。
「五月は魔法の練習をするつもりですか? それはさらなる不幸を招くことになるかもしれません。それでも、魔法を使えるようになるつもりですか?」
五月は一瞬考えた。果たして、魔法を使うことで、どうなるのだろうか。また不幸を招くのか。それとも、不幸を防げるのか。
その答えは、すぐに見つかった。
「サラ、わたしは、魔法を使う。もしかしたら、不幸を招くかもしれない。今の学校とか、イワキダイキのようなね。でも、それは結局、源家である以上、避けて通れないと思う。だったら、新たに起きるかもしれないことに、少しでも抵抗できる手段があった方がいいと思うの。避けて通れないものは甘んじて受け入れて、防げるかもしれないもののために、魔法を使うべきだと思う」
「魔法の効果は、正確にはわかりませんよ。もしかしたら、とんでもないことが起きるかもしれません。それでも、ですか? それが起きて、さらに不幸になるのを覚悟しているのですか?」
魔法を使うべきと考える五月に、覚悟はあるのかとサラが尋ねる。
覚悟はあるのか。正直言って、サラが何を言っているのか、よくわからなかったため、何を覚悟すればいいのかわからなかった。それでも、防げるかもしれないのに、何もしないのは嫌だった。
だから、五月は言った。
「……うん。防げるかもしれないのに何もしない方が嫌。そっちの方が、かなちゃんやマリリン、裕樹、ゆかりたちに申し訳ないと思う。だから……、大丈夫。覚悟するよ。後悔しないためにも」
それを聞いて、サラは大きくため息をつく。
「わかりました。これ以上、私は何も言いません。あなたを見守ることにします。でも、これだけは心に刻んでおいてください。非常事態以外では、誰かがいるところで魔法を使わないでください。まあ、これはあなたも気を付けていることですけどね。あと、魔法のような、誰にも伝えられないような悩みや相談があった時、私がいますので、ぜひ頼ってください。私は、あなたと話すこと以外には何もできませんので、安心してください。私はあなたの味方です。なにがあっても敵になることはありません」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「みんなが来ましたね。ちょっと他のところに行ってきます。楽しんでくださいね」
かなちゃんとマリリンが来たことを悟り、サラはどこかへ行こうとするが、五月が呼び止める。
「どうしました?」
サラが振り返る。
「ありがとね。わたしの味方でいてくれて。わたしと一緒にいてくれて」
そういう五月に、サラがほほ笑む。
「なに言ってるんですか。私は、ずっとあなたと一緒にいますよ。ずっと味方ですよ。これからも、ずっと。
死ぬまで。
それじゃあ、みんなと楽しんでください」
そう言い残すと、サラはどこかへと消えていった。
それを見届けると、五月はかなちゃんとマリリンがいる玄関に向かった。
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