第八話 杯流し 前編
ズッ友。「ずっと友達」の略称。
五月にとって、これほど心強い言葉、存在は、裕樹や、裕樹との約束以外ないだろう。
それこそ、五月の幸せに直結するのではないだろうか。
ただ、気になることがある。
もしそうであるならば、私に何かしら変化があるはずなのだ。
もしかしたら、時間差があるのかもしれないし、もう少し五月が幸せを実感してからなのかもしれない。
本当にそうであるならばいいのだが。
「あの魔法」について、詳しいことは知らない。黒魔法の最上級魔法だから。
何か不吉なことが起こらなければいいのだが。
※
中総体の翌日、五月はお義母さんと一緒に車である場所に向かっていた。
大会自体は、五月は走れなかった。どの種目にもメンバーに選ばれなくて、応援という形で参加したのだ。
正直、走りたかったし、悔しかった。かなちゃん、マリリンと一緒にスパイクを選んだのに、あの子のデビューすら叶わなかった。
ただ、いつまでもくよくよしていられない。仕方ないと割り切り、秋の大会である新人戦に向けて、かなちゃん、マリリンを追い抜こうと決意した。
大会の結果は、マリリンが準決勝まで進出、かなちゃんが決勝まで進出して、県大会に出場できることになった。リレーは低学年リレーの方に二人は出たが、県大会まではいかなかった。
今日は、学校のある火曜日だったが、大会翌日ということもあり、部活動は休みだった。学校の授業日だったため、すでにあたりは夕焼けに染まっていた。黄昏時である。
その千渡川は、かつて祟りがあったのは嘘であるかのように、穏やかにきれいな水が流れている。その川の先には山があり、そこには神社と、麓には今では空き家があるが、その家はこまめに手入れがされているため、その威厳が失われていない、立派な家だ。「源神社」及び「源家」である。
かつて五月はここに住んでいたが、両親の死後はここを離れ、暁家に暮らしていた。しかし、時々掃除をして、かつての家を朽ちさせないでいた。源家は、両親の死により五月ただ一人となり、五月は、今では暁家でありながら、源家当主としての肩書もある。
その源家の建物がある山の高台は、かなちゃんやマリリンと一緒に花見をしたり、五月の誕生日会をしたりしたところである。先日の公園での五月の話から、三人はより仲良くなった。その日の朝にかなちゃんとマリリンが相談していた五月の誕生日会は、二人が蕎麦屋で蕎麦をもらい、それを高台で三人一緒に食べた。初めてそこで食べたのだが、いつにもましておいしく、五月にとって最高の誕生日となった。
しかし、今向かっているのは、その高台ではなく、源家から、源神社へと上る石段の近くだった。
千渡川を渡ると、山道に入る。その先に行くと、源家が見えてくる。瓦屋根で、二階建て。そこの駐車場に車を止め、そこから先は徒歩で目的地に向かう。
再び山道を進むと、ほどなく石段が見えてくる。そこを上ると源神社だが、そこを通り過ぎると、小さな脇道があり、そこに五月とお義母さんは入った。
しばらく進むと、開けたところに出た。そこには、いくつかの墓石があった。それらはすべて源家の墓で、そのうちの一つの前に、二人は立った。
「あれから二年か……」
お義母さんが口を開く。あれ、というのは、二年前の「六月地震」のことである。昨日でその地震から二年になる。その地震で五月のお父さんとお母さんは死に、五月だけ助かった。
「
お義母さんが両親に語りかける。当然のように返事はない。風で木が立てる音だけだ。五月はお義母さんには構わず、墓石を見つめていた。
そんな五月に、お義母さんは声をかけた。
「五月、あんたも何かないかい? もう暗くなる。そろそろ帰らないと、危なくなるよ」
そこで初めて五月が口を開いた。
「お義母さん、……いいえ、ゆかり。少し離れてもらってもいいですか? 三人だけでお話がしたいです」
それを聞き、ゆかりは後ろに下がった。それを見て五月は墓石に話しかけた。
「お父さん、お母さん、お久しぶりです。五月です。ゆかりも言ってたように、いろいろあって大変でした。でも、わたしは大丈夫です。また、新しい友達ができましたから。その子たちはとってもいい子たちで、楓や雪奈のような人です。性格は違いますけどね。その子たちの名前は、『千葉佳菜子』と『佐藤麻利亜』です。わたしは、『かなちゃん』と『マリリン』と呼んでいます。楓や雪奈、お父さん、お母さんには会えませんが、二人と一緒なら大丈夫です。わたしはがんばれます。楽しんでいけます。だから、どうか安らかに。
また来ます。失礼します」
そして、お義母さんに言った。
「お待たせしました。帰りましょう」
帰路の途中、お義母さんは五月に話しかけた。
「学校は大丈夫かい? 知り合いは誰もいなかったけど、やっていけてるかい?」
五月は笑って答えた。
「大丈夫ですよ。かなちゃんとマリリンがいますから。わたしたちはズッ友です。そんじょそこらのことがあっても引き裂けません」
お義母さんはそれを聞くと、笑みを浮かべる。
五月は不意に笑みを消し、お義母さんに言った。
「ゆかり、イワキダイキは来ましたか?」
それを聞き、ゆかりも顔を引き締める。
「ああ、来た。あんたが学校に行ってる間さ。あんたがいないと知ってどっか行ったが、おそらく村人にあることないこと聞いてるんだろうよ。ほんと、面倒なやつさ。今のところ、被害は無しさ」
それに五月が返した。
「わかりました。ですが、油断は禁物ですね。また変なことを書かれたら、面倒なことになりますし」
そして、五月は続けた。
「ゆかり、源家当主として、暁家当主であるあなたに提言します。村人にはイワキダイキのことを無視するよう徹底すること、もし被害に遭いそうな人がいる場合には、警察を頼ることも含め、イワキダイキから身を守るようにすること、イワキダイキの狂言について聞かれた場合、それはガセだと説明すること、以上です」
「もうやってるよ、五月」
即座にゆかりは返事をする。
「前の五月みたいなことにはしたくないからね。あらかじめ手は打ってあるよ。面倒だが仕方ない。ただ、記事までは無理だ。これだけは仕方ない。名誉棄損で訴えるのもありかもしれないが、それじゃ、五月に負担がかかる。余計なことまで思い出す。それに魔法なんて代物が対象になるから、証拠なんてありゃしない。そうなると、結局失敗するのは目に見えている。そしたらあんたもつらいだろ? あんまり考えたことないかもしれないが、それはあたしらも同じなんだ。それに、少なからず報道されるから、風評被害は免れない。まあ、風評被害は時間が解決するかもしれないが、心の傷は別だ。そう考えると、あいつがいなくなるまで耐えるしかない」
それを聞いて、五月はやるせない気持ちになる。どうにかしたくても、何もできないのだ。何かしたら、結局傷つくだけで、目立った成果が出ないのは明白なのだ。結局、無視したり、証拠がないながらも潔白を主張するしかないのだ。
なぜ、あいつがあることないこと書くのか。おそらく、読者獲得や、自身の地位向上のためなのだろうが、それによって傷つく人間のことは、全く考えていない、無責任で、ただの自己中心的なやつだ。そんなやつのためにこんな思いをするのは、受け入れられない。それにもかかわらず、それに抵抗する手段が限られ、しかも根本的な解決策にはならないのは、軽い鬱のような気分になってしまう。
「なあ、五月」
徐にゆかりが切り出す。
「無理に源家当主を演じなくていいんだよ。あんたはまだ中学生になったばかりの子供だ。そんなやつに、重荷を背負わせたくない。もともと、これは大人の仕事だ。だから、今は暁家と、橘家に任せておくれ」
しかし、五月は首を振った。
「ありがとうございます。ですが、形だけでもさせてください。それが将来につながるかもしれないので」
それを聞いて、ゆかりはため息をつく。
「はいよ、まあ、あんたは聞かんだろうなとは思ってたけどね。あたしもそうだったし。
でも、これだけは忘れるんじゃないよ。あんたは、あくまで、『源家』に関しては当主で、『暁家』に関しては、特に何かあるわけではない。『源家』は本来、神職関係をつかさどる家。これは村の歴史と深くかかわっているし、何より、村人の心の拠り所だ。それぐらい、『源家』の当主というのは、この村では責任が重い。だから今は、せめて神職関係、つまり、『杯流し』ぐらいにしてくれないか。いっぱい背負い込んでつぶれるのだけは避けたい。
だから、イワキダイキのことは、あたしたちに任せてくれないか、源家当主、源五月」
それを聞いて、五月はその通りだと思った。五月の本来の村での役割は、「杯流し」を中心とした神事で、主に口嚙酒、演舞などといった巫女の仕事、それに加えて、源神社の心臓部とされる、「宝物殿」の維持、管理や、継承、そこに安置される、源家当主のみが受け継ぐ、源家当主の証である、勾玉の継承、
一応、暁家や橘家もその神職についている者もいて、神主も担当しているが、巫女の役割に関しては、源家に源家出身の女がいないときにしか、暁家や橘家が担当できないということになっていた。それだけ、「杯流し」を担当するのは神聖なもので、実際、源家以外が巫女を担当したのは、「杯流し」が始まって以来、ないとされている。それだけ、責任が重く、巫女というのが重要視されてきたのである。なおさら、宝物殿の維持、管理、継承や、勾玉の継承は、源家の当主にしか許されない神聖なもの。勾玉の存在すら、源家以外は知らない。それに余計な重荷を背負うことは、つぶれたり、本来の巫女の役割、源家当主の役割を果たせないことにつながりかねない。
そのため、五月はゆかりに言った。
「わかりました、ゆかり。頼りにしてますよ」
ゆかりはそれに頷いた。
※
次の日、五月が学校に登校すると、いつもと様子が違っていた。いつもなら、楽しくおしゃべりしながら教室に向かう生徒がみられるのだが、その日は少し暗く、何やら噂話をしているようだった。なんとなく五月は察しがついたのだが、わざわざ自ら火に油を注ぐようなことはしなかった。
ざわめきは五月の同学年である一年生のクラスが並ぶ階層で大きく、五月のクラスの前に来ると、それは顕著で、心なしか五月への視線も白く感じた。
それらを無視し、五月は自らの教室に入る。すると、ざわめきは一瞬静まり、五月へ皆の視線が向けられた後、再び皆がひそひそと話し始めた。
まるで、目の前に容疑者がいるような態度。
昨日まで五月を受け入れてくれていたのに、たった一日でこれほど簡単に疑いの目を向けられるなんて、今までの日々は何だったのだろうか。何もしていないのに、所詮嘘か本当かわからないと受け止めているであろう情報だけで、友達でさえも、こんなにも手の平を返すのだと思い知り、悲しくなってくる。
五月が席に着くと、それを見計らったかのようにかなちゃんとマリリンがやってきた。
……二人もだろうか?
ズッ友でさえも、こんな態度をとるのだろうか?
不意にそんな不安が巻き起こり、恐怖に襲われる。
ドクっ、ドクっ、ドクっ。
動悸がする。
肺を握りつぶされるような錯覚を感じ、呼吸がつらい。
緊張で二人と目を合わせられない。
そうしている間にも、二人はどんどん近づく。
……信じろ。
自分に言い聞かせる。
大丈夫だ。
二人は言ってくれたではないか。
イワキダイキの言っていることは、五月と関係がないと。
ガセだと。
恨まないと。
守ると。
五月がつらい目に遭うほうが嫌と。
友達だと。
どんなことでも受け止めると。
……ズッ友だと。
「おはよう、巫女さん、みんな、巫女さんの話でもちきりだよ」
大丈夫だろうか。
今のところ、かなちゃんの様子は変わってないように思える。
「……だろうね」
五月はまだ顔を向けられない。
「まだみんなミーちゃんのこと半信半疑って感じなの。でも、これになんかあったら……」
マリリンも変わっていないようだ。
二人は、ズッ友は、変わらずにいてくれている。
そう思った。
「……二人は、やっぱりみんなと違うんだね」
思わず口にする。
「巫女さん、やっぱり不安だった?」
五月の言葉が聞こえたのか、かなちゃんがいたずらっぽく笑いながら言った。
「言ったでしょ。ワタシたち、ズッ友って」
マリリンも微笑みながら言う。
信じた二人が、ズッ友が、やはり裏切るのではと怖かった。
でも違った。
二人は、五月の味方だった。
そのことが分かった。
思わず目頭が熱くなるが、深呼吸してこらえる。
周りに見られたら、何を言われるかわからない。
ただ。
これだけは、二人に言いたかった。
「……ありがと」
小さな声が出る。
けれども、二人は笑みを浮かべて五月の感謝を受け入れてくれた。
「一応、教えて。千渡村の記事が出たの?」
五月はもう一度深呼吸して、落ち着いてから言った。
「え、ああ、そうだよ。今日発売のやつ。巫女さん、知らなかったの?」
かなちゃんが驚いて聞き返す。
「お義母さんと話し合って、その対応はお義母さんたちに任せていたから、知らなかったの。でも、やっぱり予想通りか……。どんな記事なの?」
その言葉を聞いて、マリリンが自分の席から一冊の本を持ち出し、そのページを開いた。
そこには、「衝撃! 千渡村の因習!」だとか、「スクープ! 『桜空
さくら
伝』にある魔法とは?」、「あなたも呪われる? 源家の呪い!」などと仰々しい大きな見出しがついていた。その記事の最後には、次のように書かれていた。
「源神社の『巫女』の両親は、二年前に死に、『巫女』の友達は、今年一月に四人死んだ。なにか、呪いをかけられたと考えるのが妥当である。
実際に、『
本誌では、真偽を確かめるために取材を申し込んだものの、千渡村の御三家が
もしかすると、御三家に都合が悪い人間を、消そうとしているのかもしれない。今は『巫女』に親しいものだけだが、次に消されるのは誰か、わからない。本誌は、たとえその呪いの犠牲になってでも、真実を暴くつもりだ」
いつもと同じような記事だった。五月や、源家に、
それに加えて、今回は村へのこじつけも書かれている。五月や村人が傷つかないための箝口令だったが、それを逆手に取られた。村が隠そうとしているとなったら、民衆の興味はさらに増す。裏目に出てしまった。
五月の表情が暗くなったのを見て、かなちゃんがあわてて口を開いた。
「巫女さん、真に受けちゃだめだよ、こんなインチキ記事。あいつらは巫女さんをどうしようとなんて考えちゃいないんだからね。ただの自己中野郎なんだから」
それでも、五月の顔は晴れない。
「わかってるよ、そんなこと。でも、いつまでこんなこと言われなきゃだめなのかな? もういやだよ。わたしに何ができるっての? 呪えるわけないじゃん。第一、お父さんやお母さん、楓たちを呪うなんてありえないのに、なんで?
なに? 売れるならなんだって許されるの? そんなわけないじゃん。人を傷つけてまでこじつけを書くなんて、腐ってる。自分たちが書いた記事で誰かが傷つくことを知らないのかな? 本当、無責任だよ。
なんでそんなやつなんかのせいで、こんな思いをしなきゃならないの? なんで関係のない村人まで巻き込まれなきゃいけないの? 大体こんなことを知って、読者に何があるっていうの? 人の悲劇を面白がってみているようにしか見えないよ! そんな最低なこと、なんで平気で出来るんだよ! そんなことをしているやつらが呪っているようなものじゃない! 大体もう時間がたってるのに蒸し返そうとしないでよ! こんな記事、いじめでしかない!」
今までためていた感情があふれてきて、思わずかなちゃんとマリリンにぶつけてしまうが、それは止まらない。言っていてどんどん気がめいる。しかし、解決方法などなく、何にもならないとわかっていても、気持ちを吐き出すことしかできなかった。かなちゃんやマリリンにぶつけてしまって申し訳なかったが、やめられなかった。
しばらくして、疲れてきたせいか、舌が回らなくなる。のどが乾燥していたため、せき込んでしまう。どっと疲れが押し寄せ、肩で息をする。
ふと周りをちらりと見ると、いつの間にか、クラス中の視線が五月に注がれていた。しかし、五月が周りを見ていることに気付くと、目をそらし、またひそひそ話を始める。
「落ち着いた?」
マリリンがやさしく声をかける。
「まあ、一応……。ごめんね。こんなことしたって何にもならないのに」
「気にしないで、巫女さん。あたしらはあんたのためならなんだってやるから。愚痴を聞くぐらい、なんてことはないよ。ずっと一緒にいるから」
二人は、五月が気持ちをぶつけても五月と一緒にいる決意は固かった。友達だから。ズッ友だから。そんな二人の存在が、五月は心強く感じ、いくらか気分が晴れた。
大丈夫。三人なら乗り越えられる。
そう三人は信じた。
しかし。
「……何がいじめだって? 何がインチキだって?
よくそんなことほざけるな? 『源家当主』様?」
三人を嘲笑うかのように、罵倒しながら、そいつは言った。
三人は何を言われたかすぐには理解できず、茫然と声がした方向を向いた。
「結局みんな苦しむところ見たいんだろ? 何か企んでるんだろ?
いろんな人と馴れ合ってんのはそれが理由か!?」
その一言一言が、今まで築き上げてきた、絆を穢していく。壊していく。
幸せだと信じてきたものの、根元が、どんどん腐っていく。
信じていた。
ズッ友の彼女たちほど親しくはなかったけど、確かな友情が芽生えていた。
ゆくゆくは、親友になれると思っていた。
そんな彼女から放たれた言葉は、とても信じられるものではない。
でも、この目で見てしまっている。
この耳で聞いてしまっている。
呪いなんて、不確かなものじゃない。
今、まさに目の前で、浴びせられたもの。
それを自覚し、彼女と破滅的な亀裂ができてしまったことを知った。
「てめえらもよくそんな女と友達やろうと思えるな? さっさとやめた方が、巻き込まれずに済むのにねえ?」
……止めて。
そう言いたいのに、言えない。
あまりにも打ちのめされてしまって、彼女に刃向かえなかった。
ズッ友たちも、どんどん貶されていく。
「……ふざけんじゃねえよ!
かなちゃんが彼女――加美山希望に
「てめえ、あんな戯言を信じんのか!? 友達の、五月のことを信じずに!? 今まで五月と仲良くしてたのは何だったんだ!?」
かなちゃんの必死の叫び。
それは。
「は? 何でわたしがこいつなんかと友達なんだよ? ただの『知り合い』だっつうの。ふざけんのもいい加減にしたら?」
……届かなかった。
「それに、そいつが呪い殺したのは、友達だけじゃない。家族もだっての知らないの? そんなん、周りのやつまで呪い殺すに決まってんじゃん。そんなのもわかんないの?
おつむ大丈夫でちゅかあ?」
「て、てめえ……」
かなちゃんは拳を握りしめ、今にも殴り掛かんとするほど、怒り心頭に発する。
マリリンもだ。
「ほら! みんなもこんな奴らと関わっちゃ、みーんな呪われるよ! 呪われたくなかったら、関わんないほうがいいよ、こんな奴らと!」
加美山がクラスにいる人を煽る。
すると、みんな一様に、汚物でも見るような、冷ややかな目を注いできた。
※
その瞬間、何かが壊れる音がした。
四月から紡ぎあげてきた幸せの土台、友情が、跡形もなく崩れ去るのがわかった。
それどころか、容赦なく五月の心をずたずたに引き裂く、イワキダイキのような存在になり下がった。
ズッ友たちは、声高に五月をかばう。
それに、誰も耳を貸さない。
五月は、支えの一つを失い、何もできない。
教室は怒号の嵐。
五月をかばうもの。
五月を、ズッ友を、罵るもの。
もはや、破局同然。
そこに、教員が駆け付け、怒鳴りつける。
沈黙が流れる。
けれど、そんなのはどうでもいい。
支えの一つを失った。
それどころか、五月を傷つける存在となった。
イワキダイキのせいで。
そのことを嫌というほど突きつけられる。
幸せへの階段を上るはずが、一気に転がり落ちてしまった。
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