舞台はシチリア島パレルモ、クアットロ・カンティ。
そこは運命の交差する十字路。
ディーナは晴れ渡ったクリアブルーの空を、その色に似つかわしくない憂鬱な瞳で見上げ、急逝した母を追想する。
「まさに、映画のような恋をしたのよ!」
それは女優であった母が主演を務める映画の雨の中のワンシーン。
常に眩い光のもとに立つ晴れ女の彼女が十字路に立ち、ヒロインを演じた瞬間に、晴れ渡っていた空に雲がかかり、突然の雨が降り出す。
彼女曰く、それは「奇跡」
敬愛する母を想い、母の遺した旅程表に視線を落とすと、頬を伝い、ぽつりと一雫。そしてザァッと通り雨。
舞台は一転、銀幕の中へ。
モノクロームに染まるクアットロ・カンティ。
突然の雨に忙しなく駆ける人々の中、ディーナは一人立ち尽くす。
雨に濡れ、母に文句を一つ呟く彼女に、プルシャンブルーの傘が差し出される。
それはまるで、あの映画の脚本をなぞるように……
一つ一つの言葉の選び、表現の細部に至るまで心を配られた、色彩と情感にあふれる筆致で描かれていて、本当にパレルモの街角、クアットロ・カンティに立ってそのワンシーンを見ているような感覚を抱く素晴らしい作品です。