005

 ハッキリ言っておく。後輩、入間悠の変化は、俺の予想を大いに、遥かに、著しく裏切った。

「そういえば先輩、今日は朝にしちゃいましたか? してないんだったらあとで抜き抜きしてあげますけど」

「遠慮しておく」

「遠慮しないでください! 先輩のためならこの肢体からだ、どんなことに使ってもいいんですよ!」

 自分の身体を抱きしめながら、くるくるとその場で回り始める入間。やけに安定した回り方だ。

「先輩さん、何をしたです?」

 駒井が俺の裾を引っ張る。顔は真っ青で、まるで信じがたい真実に到達した哲学者のようだった。

 もちろん、『これ』というのは入間のことだろう。

「えっと、いろいろあってだな」

「えっ、エロエロですか!?」

「言ってねえよ!」

 綺麗な回転を止めて、話に混ざってくる。聞き間違いにもほどがある。

「あのな、入間、委員会中なんだから静かにしろ!」

 俺は怒鳴って、周りを見渡す。他の係からチラチラと視線を感じる。そりゃそうだ、この前まで一番静かだった係が、いきなり大騒ぎしてるんだから。おまけに一人は卑猥なことばかり言っているこの状況に、目を向けないわけがない。

「先輩、言ってくれたじゃないですか……昨日のこと、忘れちゃったんですか?」

 両手の人差し指を合わせて、イジイジしている。やめろ、そういうことを言うと誤解されるだろ!

「先輩さん、何をしたです?」

 友がジトリとこちらを見つめる。いや、これは睨みつけている。激しく訝しんだ目で、心臓を一突き、刺すように。

「いや、ただ『自分らしくしろ』って言っただけだぞ!?」

「そう! 自分らしく! 裸になれって!」

「言ってねえよ!!!」

 小さな少女の絶対零度の視線をこれでもかと浴びせられ、俺は既に瀕死状態だ。

「うわぁ……です」

「やめろ駒井、そんな目で俺を見るな! 誤解だ!」

「違うです。ここは三階です」

「五階!? 階数の話はしてねえ!」

 入間の変化は、正直驚きを隠せないところもある。

 だけど、会話がとっても弾み、雰囲気がとっても良くなったのは確かだ。それに、笑顔の彼女は、以前よりも、とても魅力的だった。


 学園祭が楽しみだ。


「きゃっ、先輩そんな狼のような目で私を見つめないでください!」

「男はみんなそんなもんです」

「オチを台無しにすんじゃねー!!」


End.

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あんたいとる!-prelude- 不知火ふちか @shiranui_fuchika

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