第7話

第七回

「中学時代の同級生でつんくという男がいるんだけど、取材先で偶然にも出会ったんだけど、

そいつが自動車の設計責任者になっていたとは思わなかったよ」

「自動車って」

「黒木自動車の新車のことだよ」

「ああ、あの車ね。俺達には関係のない高級車のことだろう」

「ああ、中学生時代の同級生がその車を設計したんだよ。つんくって奴なんだけどね。

中学生のときはバンドをやつていたんだぜ。

そのときから髪を金髪に染めて先生に怒られていたんだけどね。意外だったなあ。

あいつが自動車の設計屋になっていたなんてね。そこでも金髪に髪を染めていて、

まるでホストみたいだったよ」

「それで、どうしたんだい」

「久しぶりに会ったから、中学時代の思いででも語り合おうということになって、

そのあと飲みに行くことになったんだ。そこで郷愁に満ちたふるさとの思いで話になったわけよ。

昼間見た、あの新車はどこか女性を思わせる。それも白百合の花を連想させるなんて、

少しおだてて話をしたわけよ。それに俺にも疑問があってね。

なんで三十を少し出たくらいなのに結婚しないのかってつんくに聞いたわけ。

別に本人が女にもてないというわけじゃないからね。俺はそこに疑問を持ったわけ」

「ホモだったりして」

「方向が違う。あいつは十年ほどまえに黒木自動車に入ったんだけど、

そのとき、一目ぼれして忘れられない人がいるらしいんだ。

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それでその人のことを思い浮かべながら、その新車の設計に取り組んだと言っている。

それが誰だと思う。酔った勢いでつんくがぽろりと漏らしたんだけど。黒木自動車の副社長夫人、

黒木瞳なんだってさ」

ここで問題の副社長夫人の写真をふくやんは取り出すと同僚に見せた。

「おっ、きれいな人じゃねえか。まるで白百合のような人だ」

このふたりの会話がどこでどうもれたのか、いちご一週間の編集長の耳にとまった。

「いいじゃないか。天才技術者の秘められた恋こころ、美人副社長夫人へ送る希代の名車、

記事になるよ。これが副社長夫人、黒木瞳、わあ、すごい美人じゃないか。これは商売になるよ、きみ」

そしてこのつんくの秘めた恋は黒木瞳奥様の写真とともに大々的にいちご一週間に載せられたのである。

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百合娘 @tunetika

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