第6話
第六回
「西ゲートです」
副社長たちはは車の置いてある西ゲートの方へ向かった。
このホールではあるアイドルのコンサートが同時に行われており、
若者たちがそのほうに参加している。西ゲートのそばではその若者たちを
目当てにグッズを売るための店を立てている者も多い。それはそのアイドルに
関連したグッズを売っているのだが、その許可を受けているもの、いないものいろいろな店があった。
その西ゲートのそばであの美青年がアイドルの下敷きを売っていた。
しかし、今いち売り上げは上がっていないようだった。
「お塩、売れねぇじゃねえかよ」
「吉澤、待てよ。最初はぼちぼちなんだよ。これがコンサートが終わってから大量に客が出てくるから、
売れるんだよ」
「すっごく、儲かるってお前、言っていたじゃねぇかよ。ほらあそこの方がもっと
儲かっているみたいじゃねえか、物の選択を間違ったんじゃねえか。こんなんだったら、
家の仕事を手伝っていた方が良かったな」
「まあ、見てな。コンサートが終わってから売れ始めるから」
「お塩、お前は楽天的でいいよ」
そこへ中学生らしい女の子のグループが三、四人寄って来た。
「こっちの人、かっこいい。こっちの人はかっこよくないけど」
かっこよくないと言われたお塩はぶすりとした表情をする。
吉澤ひとしの方はアイドルの下敷きをさかんに動かしている。
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「わたし、モーニング娘のファンなんだけど、このお兄さん、
モーニング娘の吉澤瞳にそっくりじゃないの。女にしたら吉澤瞳になっちゃうわよ。
お兄さん、お兄さんって吉澤瞳のお兄さん」
「そうだよ。下敷き、買ってくれる」
「サインしたら買ってあげる」
吉澤ひとしは下敷き、吉澤瞳とは全く関係のないアイドルの下敷きだったが、
さらさらと吉澤ひとしと書いて、その上に吉澤瞳の兄なんて勝手なことを書き足した。
それを三、四枚作って女子中学生に渡すと喜んで買っていった。
「へへへへ、売れちゃった」
お塩はぶすりという表情をした。西ゲートのところに人だかりが出来ていたので
警備員が人混みを分けた。その中からワインレッドをした高級車がそろそろと出てくる。
「あんな高級車に乗っている奴もいるんだな」
お塩がその高級車を見ながら言った。するするとその滑らかな曲線をしている
高級車は吉澤ひとしの方に近づいて来た。後部座席の方に乗っている人の姿もはっきりと見えた。
吉澤ひとしはびっくりした。その後部座席にはあのセレブの若奥様が乗っているではないか。
あのクラブでの出来事も自分のバイクに乗せて港に行ったときのあの背中のぬくもりも。
たしか、黒木瞳って、言ったけ。自分の名前と同じだ。でも、自分のことを覚えているだろうか。
吉澤ひとしはそんなことを考えながらその車の中のあの人のことを見つめている。
するとなんと、あの人も吉澤ひとしのことを覚えいたのだった。
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ゆっくりと徐行しながら通り過ぎる車の中であの人が吉澤ひとしのことを見ながら、
ほほえんだのである。吉澤ひとしは男としてふるまっているが、
もちろん美少女と呼んでいいほどの正真正銘の女である。それなのに、
不思議なことに吉澤瞳は胸の高まりを覚えたのである。
あの人は自分が本当は女だということを知っているのだろうか。
「何、じっと見つめているんだよ」
隣のお塩がその様子を見て吉澤ひとしをやゆした。
「なんでもねえよ」
「あの奥様に知り合いなのかい」
「知るわけがねえだろう」
吉澤ひとしこと吉澤瞳は照れくさそうに笑った。
あの盛況を極めた白百合のような新車の発表イベントがあってから数日後のことであった。
中堅の一般週刊誌を出している出版社でいちご出版という会社がある。
そのいちご出版のいちご一週間という題名の週間雑誌の記者でふくやんというあだなの記者がいた。
ふくやんは同僚の記者と近所の定食屋に入ってあじフライ野菜炒め付け合わせ定食といのを喰っていた。
「意外だったなあ」
「意外って何が」
隣で飯を口の中にかっこんでいる同僚が聞き返した。
ふくやんは箸を持ったまま、隣に座っている同僚の顔を見つめた
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