第5話
第五回
「あの男はどんな車もはるか以前からこの世に存在している
チーターやかもしかのように作り出してしまいます。あの男の設計した車は人間が設計したのだろうか。
ずっとはるか以前に存在していた神の創造物を再び、掘り出しただけではないかというような車を
作りますよ」
やはり黒木彬は自慢した。
「ああ、あれがあの車を設計した技術者のつんくデスカ。日産にもあんな技術者が欲しかったデス」
「いけませんよ。彼はうちの財産ですから、アハハハ」
黒木彬こと中尾彬は自慢たらたらでまた得意気に豪傑笑いをした。
その新車の開発責任者というのもとても技術屋には見えない。
金髪に染めていてまるでホストのように見える。それでいて三十を少し出たくらいだったが独身だった。
ホールの下の方では副社長の三浦友和こと黒木友和とその妻、
黒木瞳が客の応対で忙しかった。客たちは黒木瞳の前に来るとその美しさを口に
出して賞賛はしなかったが、それを態度には表した。
しかし、そんな客の態度に得意気な表情もまた恥ずかしそうな表情も黒木瞳はしなかった。
それは黒木瞳が昔から他人からそういう扱いをされ続けてきたことを意味しているかも知れなかった。
三浦友和こと黒木友和の横から秘書が口を挟んだ。
「副社長、二時からペンギン山の断髪式があります」
「なんだ、そんな時間か」
副社長は自分の腕時計を見ながら横にいる瞳奥様の方を見つめた。
「ペンギン山の断髪式だって。瞳ちゃん、行く」
「友ちゃんが行くなら、私も行きますわ」
「よし、決まった。車はどこに用意してあるんだい」
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