第4話

第四回

巨大なホールの中でカメラのフラッシュが至るところで閃光している。

コンベンションホールの一つのドームを借り切って日本で最大の自動車メーカーの

ひとつが創業百年を記念したこの社のイメージともなる新車を開発して大々的に

この車の新車発表会をおこなっていたのである。ホールの中央のところに燦然と

ライトを浴びながらその新車がプレスのフラッシュも同時に受けている。

新車の発表などというととかく人の目を引くように目先の変わった車を

宣伝用に出してくるものなのだが、その車はごくオーソドックスでそのくせ

どことなく魅力があった。このメーカーが全力を注いで開発した車だけのことはあった。

 この自動車メーカー、クロキ自動車社社長兼会長、今年六十二才になる中尾彬に似た

黒木彬は満足した表情でこの発表会の様子を眺めている。そこに日産のゴーン社長がやって来た。

「クロキさん、今度の新車にはワタシもすっかり惚れ込んでシマイマシタヨ。

この車は一メーカーの車というだけでなく、日本の自動車メーカーが到達した一つの水準デスネ」

「ありがとう、ゴーンさん、今度の車を開発するには大変な費用と労力がかかりました。

あなたに誉めていただけるなんてこんな名誉なことはありませんよ」

「それからワタシは素敵なものを見ツケマシヨ。

ほら、あそこ、あなたの息子さんの横に立っている人は誰デスカ」 *****************************************************************************

ゴーン社長は下のホールのところに立っている三浦友和に似た

副社長の黒木友和の横に立っているこれぞ、セレブという感じの若奥様風な女を指さして言った。

 すると黒木彬は自社の新車を誉められたとき以上に素行をくずした。

「うちの息子の嫁なんです。自慢の嫁ですよ」

「名前はなんて言うンデスカ」

「瞳です」

黒木彬は恥ずかしそうでもなく、喜びを満面に浮かべていた。

「今度の新車、息子さんのお嫁さんに似てイマス」

「どんなところですか」

ゴーン社長は言葉が見つからなかった。そして言いよどんだが、

そばに花が飾られているのを見て言った。

「そうこの花に、リリーに似ています。白いリリーに。日本語ではなんと言うノデスカ。

そうね、わかりました。白百合に似てイマス」

その言葉を聞いて中尾彬こと黒木彬はなおさら喜んだ。少しは恥ずかしい

表情をしろとでもそばいる人は感じるかも知れないが黒木瞳は黒木彬にとっては自慢の嫁なのである。

「そうですか。白百合に似ていますか。白百合に、うちの新車もわたしの家の嫁も。あははは」

黒木彬は豪快に笑った。

「その白百合を作った人は誰デスカ」

「あそこにいるでしょう」

黒木彬はやはり下のホールの掲示パネルの前で技術的な説明をしている男を指さした。

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