第3話
第三回
「ええ」
吉沢はびっくりした。
しかし、若奥様はそれが運命だという表情をしてまったく動じない。
「健一、メットを貸してくれよ」
外に出て、バイクのエンジンを吉沢はふかした。
「海に行きたいわ」
「よし」
吉沢は背中に若奥様の体温を感じた。
革ジャンを通して女の身体のにおいが吉沢の背中に伝わってくる。
船の見えるところまでふたりは来た。
「わたし、帰る」
若奥様は突然、言う。仕方なく、吉沢はこの女を地下鉄のそばまでバイクで運んだ。
なぜか、吉沢はこの女と離れたくなくなった。「あなたの名前、黒木瞳というんだろう」
「あなたの名前は」
「吉沢ひとし」
「覚えておくわ」
黒木瞳はほほえみながら地下鉄の中へ降りて行った。
美青年吉沢ひとしは自宅のそばまで来るとそばの公園にバイクを停めた。
そして公園の中の水道で顔を洗う、するとセミロングの髪が広がった。
そこにはなんと美しい女性が立っているではないか。吉沢ひとしは化粧を薄くする。
そして自宅にもどった。
「かあちゃん、今夜のおかずはなんだよ」
「また、バイクに乗って来たのかい」
母親が文句を言うのも聞かずに吉沢ひとしは自室の二階にあがった。
そしてあらためて鏡の前で化粧を始める。
美少女という言葉がぴったりだった。
「わたしがもし、男だったら、わたしに惚れてしまうわ」
吉沢ひとし、本名は吉沢瞳、れっきとした女である。
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