第5話 先輩

「じゃあ楽しみにしてるね。」

「はい。私も楽しみです。」


 電話が掛って来た相手は、以前会社でお世話になった先輩だった。転勤でこちらの部署に配属になり、せっかくだから会いたいしご飯でもというお誘いだったんだけど、久しぶりに先輩と話せてとても嬉しい。年齢的にあまり感じなくなった淡い過去が蘇った感じ。

 先輩というのは、私が主任をしていた頃、係長だった上司の事。綺麗なバリキャリな女性ですごく尊敬している相手だったりする。それでいて、後輩からも人気があって気さくな性格の持ち主だったから、すごく会社では人気な人だった。

 私は、新卒から先輩にはお世話になりっぱなしで、よく先輩にフォローしてもらっていた過去がある。新人にはありがちなミスなんかはすぐさまフォローしてくれていた。そんな姿を見て先輩カッコいい!私も先輩みたいになりたいと思ったものだ。

 私が入社して、新人教育をしてくれた先輩。私の社会人の初めてを側で見守っていてくれた人物でもある。新人の頃からすごくやり手な先輩だと尊敬していた。だって案件どんどん成功させちゃうし、言い方が悪いかもだけど口が上手なの。あの男性社員が多い中、バリバリ発言して、会社に利益をもたらしたりするものだから、会社側からの評価もすごくよかった。女性社員からも信頼されていて男性社員には負けない仕事量そして利益を確実に上げる社員として重要視されていた。その手際は男性社員に嫉妬を覚えさせるようなものだったりして時折トラブルみたいなこともあったはあったんだけど、それも上手にこなすあたりも先輩の凄さだったりする。その結果、私が新卒入社から一年後にはすぐに主任に昇進して上司となった先輩。やり手の先輩の背中を見て、私も頑張ろうって主任のポストに就くことが出来たのは、今の仕事に至った自信につながっている気がする。それも先輩のおかげだったなと当時のことを思い出した。

 先輩は、私が退職した後、転職していた。なんの縁なのか今雅美ちゃんの系列の会社の支社で部長というポストを与えられ、まぁヘッドハンティングされたわけだけどそれも今聞いた話で結構驚いていたりして。私がその会社で働いていた事を教えたらびっくりされて、さらにフリーランスだというと更に驚かれた。へぇあの幸子がねという意外そうな感想を頂いた。これも全部先輩のおかげですと今でも感謝しかない。

 私とてこんな思い切った選択をすることが来るなんて思ってはいなかった事だったけど、そうだったらなと夢みたいに思った事もあったんだけどなぁ。まぁその思いつきも雅美ちゃんと付き合ったからという結果で出来た選択だったんだけど、私的には今満足できている。何より自宅でパートナーの帰りを待つ事が出来る環境がいいなって思ってたりする。それには、ある程度の収入とかもあるだろうけど、それなりには稼げてるかなって思う範囲には経営的には安定してるし。いい感じだと特にそう思うのかも。お金ってやっぱり大事だから。まぁまだまだ雅美ちゃんと一緒にっていう環境にまでは行けてないのは私の頑張りが足りないんだろうなっていう反省もあったりする。


「幸子さん何か嬉しい事でもあったんですか?」


 雅美ちゃんの言葉で顔が緩んでいた事がわかった。雅美ちゃんとの同棲生活は始まっていた。一応ご両親にも挨拶に二人で行ったんだ。雅美ちゃんのご両親には「雅美何もできませんが、いいのですか?」と逆に心配されてしまったり。でも、ご両親から雅美ちゃんはとても愛されているんだなと思った。1人娘を一人暮らしにさせているのが、実は不安だったのだとか。新居に移る時にも、引っ越しのお手伝いもしてもらっちゃって本当申し訳ないなと思った半面、すごく素敵なご両親だなと思ったのよね。このご両親から生まれたのが雅美ちゃんなんだなって納得した感じ。みっちゃんも手伝いに来てくれたんだけど、私と雅美ちゃんをからかうものだから、雅美ちゃんのご両親の目が気になって仕方なかったんだよね・・・ほんとみっちゃんはもう・・・


「以前勤めていた会社の先輩がね、こっちに配属になったらしくて、ご飯でもどう?ってお誘いの電話だったの。」

「幸子さんの先輩ですか?」

「そう、すっごくお世話になった先輩で、昔の会社で私の教育担当だった人だったんだぁ。」

「へー」


 幸子さんでもそんな先輩がいたんですね「超人」なのにとぼそっと聞こえないように言った雅美ちゃんの声が聞こえた。よく雅美ちゃんが幸子さんは超人だと言ってるけど、それには私は納得できないんだよね。超人なんて私には程遠い人だと思うの。あえて言うなら、先輩みたいな人を超人だと思うべきよね。


「その雅美ちゃんが言うさ超人が先輩だと思うのよね」

「幸子さんが言う超人って・・・やばくないですかその人」

「やばいかどうかは解んないけど」


 私が言う超人がそんなにやばい人と私に対する評価があまりに高すぎる雅美ちゃんに、私は本当は違うのにって思いながらも、それがちょっと嬉しかったりして・・・。本当雅美ちゃんはと思いながらも、頭を撫でたくなっちゃう衝動が抑えられなかったりして、髪に触れちゃうんだよね。


「もー幸子さんそうやってすぐ子供扱いする」


 子供扱いしてるわけじゃないんだけど、雅美ちゃんにとってはそう思う事がよくあるらしい。明らかに母性本能ではないんだけどなと苦笑いしながらも、雅美ちゃんに触れたいから言われても触れちゃうんだけどね。


「幸子さんにとってすっごく大切な人なんですよねその先輩」

「うん?そうだね、すごく尊敬してるし、大切な人ではあるけど、雅美ちゃんの方が大切だよ?」

「そ、そうですか」


 照れくさそうにする雅美ちゃん。10歳離れてると可愛いと思う事が増えるとかあるのかな?一緒に住んでるのになんでこんなに可愛いのだろう。よくそう思っちゃう。だから、すぐ抱き締めちゃうし、甘やかしたくなっちゃうのよね・・・。


「幸子さん。お風呂」


 抱きしめていた雅美ちゃんがそう言うから仕方なく離したけど、雅美ちゃん分が足りない私はちょっと甘えてみたくなったりして。


「今日は一緒に入ろうか」

「・・・はい」


 照れくさそうに返事をした雅美ちゃん。本当可愛いんだけどどうしたらいい?同棲してからもいつもこんな感じ。慣れるどころかもっともっと好きになっちゃってる自分に驚いていたりする。

 その先輩が雅美ちゃんの部署の部長になるという事はまだ伝えてないけど、まぁいっかお風呂の時に話そうかな。あの先輩が雅美ちゃんの上司になるんだなと思うとなんだか複雑な心情だったりする。だって先輩やり手なんだもん。私を超人だと言う雅美ちゃんは本当の超人を目の当たりにするんだけどね・・・。美人でやり手な先輩に心変わりなんかしないよね・・・?ってちょっと今から心配だったりするのは私が雅美ちゃんを好きすぎるからなのだろうか。






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年の差10歳の恋~この子と幸せになる~ いのかなで @inori-kanade

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