猫な彼女の甘え方

@山氏

甘え上手な咲弥さん

「あの、咲弥さん?」

「なあに? 啓人」

「いつになったら退いてくれるのかなーって……」

 俺の膝の上に座っている女の子に声をかけた。彼女は咲弥。俺の彼女だ。そして啓人というのは俺。

 咲弥は、もう1時間も俺の上に座って携帯を弄っている。

 俺が言うと、咲弥はジト目で俺の方を向いた。

「……」

「なんか言ってよ……」

 俺の方を見るだけで、動く気配も、何か話し出す気配もない。

「嫌なの?」

「嫌じゃないけど……」

「じゃあいいじゃん」

 咲弥は、前に向き直ると俺に体重を預けた。

「俺、なんか怒らせるようなことした?」

 俺は咲弥を抱きしめると、咲弥はもぞもぞと動いた。

「……怒ってないし」

「怒ってるじゃん……」

 不機嫌そうに言う彼女に、俺はため息を吐いて咲弥の頭を撫でた。

「~~~~」

 咲弥は何とも言えない声を出すと、さらに俺に体重をかける。

「甘えん坊だなぁ」

 俺はしばらく咲弥の頭を撫でた。こうなった咲弥は、自分の気が済むまで退いてくれることはない。

 すると、俺の携帯が鳴った。友達からの電話だ。

「誰? 女の子?」

「違うって、大和だよ」

「貸して」

 俺が電話に出ようとすると、咲弥は俺から携帯を奪って電話に出た。

「もしもし、今啓人といるから邪魔しないで」

 それだけ言って、咲弥は通話終了のボタンを押してしまう。

「……」

「携帯、返してもらってもいい?」

 俺の携帯を持ったままの咲弥に言う。

「ちょっとしたらね」

 咲弥は俺の携帯を片手に、ポケットから何かを取り出した。猫のストラップのようなものが見える。

 それを慣れた手つきで俺の携帯に付けると、携帯を返してくれた。

「……お揃い」

 咲弥は自分の携帯を少し上にあげて、俺の携帯に付いたものと同じストラップを俺に見せてきた。

 少し咲弥の頬が赤くなっているように見える。

「恥ずかしいならやらなければいいのに……」

 俺も俺で少し恥ずかしい。

「勝手に取ったらダメだからね」

 そう言って咲弥は立ち上がる。

「満足した?」

「ん」

 咲弥はそれだけ言うと、俺の布団に寝転がった。

「今日泊まってくの?」

「帰るのめんどくさい」

 咲弥は掛布団をかぶり、枕に顔をうずめた。

「別にいいけどさ」

 俺はため息を吐いて、大和に謝罪のメッセージを送った。

「晩御飯、何がいい?」

「なんでもいい」

「わかった。じゃあ俺準備するから待ってて」

「んー」

 咲弥を置いて、俺はキッチンへ向かった。

 軽く晩御飯を作ってテーブルに並べたあと、部屋に戻る。

「咲弥、ご飯食べよ?」

「……」

 返事がない。

「咲弥?」

 顔を近づけると、すぅすぅと寝息が聞こえた。

「寝ちゃったの……」

 せっかく御飯作ったのに、と思いながらも俺は部屋の電気を消して、一人で晩御飯を食べた。

 

 

  

 

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