彼女の足になる

@nappu3939

第1話 エピローグ

「ドスッ」

 音にならない音がした。朝の通学途中、下り坂の途中にある直角の交差点で走っていた人に衝突した。頭が真っ白になる。その事実を飲み込むまでに数秒かかった。

「きゅ、救急車…」

 身体中が震えポケットから取り出そうとしたスマホを一度落としてしまう。それを慌てて拾おうとするが、自分が自転車に乗っていたことを忘れていて自転車ごと横転。両肘と膝を擦りむいたと思う。だが、痛みは感じなかった。スマホを拾い上げ、何度か打ち間違えたが119番に連絡を入れることが出来た。


 何時間経ったのだろうか。いや、実際にはそんなに経っていない。俺は震えて道の隅に座っていた。途中、人が通り声をかけてくれた気もするが何も覚えていない。

救急車が来た。そして俺も連れていかれた。

______________________________________


そ れからどうなったかはあまり覚えていない。だから後から聞いた事実を話そう。


 5/17日、俺は自転車で人を轢いてしまった。轢いてしまったのは同じ城郷高校の2年、山畑 香織さん。俺が一年だから先輩である。あの事故のせいで脊髄損傷し下半身が麻痺。まだ若いからリハビリをすれば完治することもありえるという。ただ、そのためには一日に何時間も過酷なトレーニングをしなければいけないし、相当な年月を必要とするそうだ。


 事件は互いに非はなく意図せずしておきてしまったと判断され、裁判を起こすことなくいくらかの賠償金を払うことで解決した。


 事件から1週間俺は学校を休み続けた。


 5/24日、山畑さんの病室に出向くことになった。うちの両親も同行するそうだ。両親同士はすでに何度か顔を合わせており、のほほんとした人たちだから大丈夫よと励ましてくれた。が、俺の体は震えていた。


 彼女の入院先の総合病院につく。中に入るとある40代後半と思われし夫婦に話しかけられた。両親との会話を聞いていたところ、すぐに山畑さんだとわかった。

「香織の病室は324号室だから先に行ってきなさい。とても優しい子だからそんなに怖がらなくても大丈夫よ。」

 と山畑さんの母親に言われた。自分の娘を”優しい子”というあたり親バカだなと思いつつ言われた通り病室へと向かう。


病室の前に着く。俺は拳を握りしめながらノックをした。


「どうぞ〜」

 と明るい声で返される。

「失礼します」

「あなたが角田 悠君ね?」

 彼女は体を起こしながら言う。

「はい。この度は申し訳ありまs…。」

「あーわかった、わかったから。そういう雰囲気嫌いなのよね。あ!いいこと思いついた!君ここの部屋を出るまで謝罪禁止ねいいわね?絶対だからね?破ったら鼻にとんがりコーン詰めるからね!」

 とても明るい笑顔でそういった。なんだかとても楽しそうだった。

「はい。わかりました。気を付けます。」

「だーかーらー!敬語も禁止!次そういう態度取ったら耳からそうめん突っ込むからね!」

 そんなこと言われてないと突っ込みたくなったがここは抑えることにした。

そういえば俺はここに謝罪しに来たのであった。しかし、謝罪もダメ、敬語もダメ。俺はこの後何をするべきなんだ?と考えていたら彼女から声をかけられた。

「今から重大発表があるの。君の今後にもかかわる大事な話だからそこの椅子に座ってよく聞きなさい?」

 もう何も考えず、彼女の言うことを聞くことにする。

ベットの横にあるパイプ椅子に腰を掛け視線を上げる。背中につくくらい長い黒髪、白くてきれいな肌、大きくてとても自信のありそうな黒い目。控えめに言ってかわいいな。と見とれていると彼女はこう言った。


「君、責任とって私の足になりなさい?」


これが僕と彼女の災厄な出会いだった。

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