第2章 エピローグ2
「そう、抜け出されたのね。そっちに問題は? ない? そう、よかったわ」
「いやぜんぜんよくないんですけどヨウコさん」
幅が狭く細長い空間に女性の声が響く。
いまどき珍しい黒電話の受話器を耳に当てて誰かと通話しているらしい。
スーツ姿の男が話しかけても、気だるげな流し目と手の動きであしらわれるだけだ。
背後では外国人美少女がむーっと頬を膨らませ、腰に手を当てていた。
日本の、『異世界無料案内所』で。
「ほかのヒトが管理をはじめて、順調にまわっているそうよ。二人ともお疲れさま」
チン、と音を立てて電話を切ったヨウコは、カイトとエリカに微笑んだ。
カイトは髪をかきむしって、エリカはぐっとカウンターに身を乗り出す。
「いやいやいや、問題だらけでしょうよ!」
「そうですヨウコさん! 私もどうかと思います!」
「あら、ケンジくんは満足してるのよ? だから問題はないの、『異世界案内人』さん」
「そっかそっか、よかったなあ。ケンジが夜の仕事をがんばったら、いつか『夜王』とか呼ばれちゃうかもなあ」
「ふふ、よかったですね! ケンジくんは異世界でも努力してましたから。きっとうまくいくと思います!」
「そうだな、あんな短期間でケンジを慕う後輩ができたし、後ろ盾も得られたみたいだし――じゃなくて! そういうことじゃなくて!」
「どうしたのかしら?」
「これ! これどうしたらいいんですか!」
「カイトくんの〈次元隔離〉を抜け出せるヒトを初めて見ましたぁ」
「そうねえ、
騒ぐ二人をよそに、ヨウコはいつもと変わらない。
カウンターにヒジをついて、ふうっと紫煙を吐き出す。
艶かしい仕草にカイトは無理やり視線をそらした。昂ぶると転移するので。
だが、そらしたカイトの視界に、見たくないものが見える。
「えへへ。セレナ、カイトさまにたくさん愛されちゃいましたから!」
デレっと表情を崩して、カイトの腕にしがみつく――腕を双丘で挟み込む、女神の姿が。
「あ、愛され、たくさん、むうっ。カイトくん?」
「何もしてないって! 神界でだって
「すっごく激しくて、はしたなくて、セレナどきどきしちゃいました。あれからカイトさまのことが忘れられなくて、何もない空間でずっと想い続けてたらいつの間にかここに――」
「近いですぅ! カイトくんに近すぎると思いますぅ!」
「あらあら、モテモテね、カイト」
「変
カイトががっくり肩を落とす。
右腕はケンジが案内された異世界の女神・セレナ神が、左腕はエルフでエロトラブル体質で相棒のエリカが、それぞれ抱えている。
両手に華である。
見た目だけは。
「はあ。とにかく、ケンジの手紙を届けに行ってきます。その間は――」
「私はついていきますよ! カイトくんのパートナーですから!」
「セレナはカイトさまの帰りを待っていますね。……放置されるのもまた新たな悦びで……再開の興奮と刺激もまた……」
「はあ」
「ふふ、じゃあ少し私が教育しておくわね。こっちは気にせず行ってきなさい」
「ありがとうございますヨウコさん。はあ」
「きょ、きょういく、セレナを、どんなふうに、まさか口に出せないような!」
「むうっ。行きますよカイトくん!」
「いろいろよろしくお願いしますヨウコさん。んじゃ行ってきます」
エリカに腕を引っ張られてカイトが立ち上がる。
世界を越えてカイトを追ってきたセレナは、おとなしく帰りを待つようだ。今回は。
「迷ってるお客さまを見つけたらちゃんと連れてくるのよ?」
「うーっす」
振り返らず手をひらひらさせるカイト。
そのまま、カイトとエリカは『異世界無料案内所』出て行った。
残されたのはセレナ神と、カウンターの向こうに座るヨウコの二人だ。
「さあ、次のお客さまはどんな人かしら? その前に――」
パイプをくゆらせて、黒衣のヨウコ――『唯一の魔女』がすうっと目を細める。
「ひっ、お、お手柔らかにお願いします」
この日はめずらしく、応える声があった。
ヨウコの迫力に押されたのか、震える声で。
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ということで第二章終了です!
しばらく休止しますが、各章完結の中編連作ということでご容赦ください……
再開は未定です。
テイストが違うものを書きたくなったり、
長編には向かないけど書いてみたいネタが出てきたらふらっと再開します。
いちおうね、次章は『死にかけ社畜、レベル制異世界で死にかけて復讐を誓う』という、
初挑戦のダークな世界観でいこうかと思っているんですけども。
予定は未定です……。
異世界無料案内所~剣と魔法の世界も最強チートもハーレムものんびりスローライフも賢者も建国も復讐もぜんぶご案内します!~ 坂東太郎 @bandotaro
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