第2章 エピローグ1


 第4196z世界zsdc星、ストラ大陸セレナ神国。

 港町のとある通りは、日が沈んでも活気があった。


「いらっしゃいませ!」

「ご来店ありがとうございまぁす」

「お帰りなさいませお嬢様」

「わっ、また来てくれたんだ! ふふ、ありがとう、たくましい船員さん」

「お店探してらっしゃいます? ご指名なしなら一刻3,000ディネでご案内できますよ」


 眠らない街「カブキチョー」である。

 名前の由来は、歓楽街を築いた一人の男しか知らない。

 なお本人も正確なところは知らない。


「今日もお願いしていいかしら?」


「当然ッスよ! いらっしゃるお客様も、働くみんなも幸せにするのが俺の夢ッスから!」


「うふふ、ありがとう。じゃあ終わったら今日こそ二人で飲みに――」


「んじゃいってきます! 店のことは任せたッス!」


「留守ヲ任サレル。コレハモハヤつがいト言エヨウ」


「よろしくお願いしますセンパ――店長!」


「もう、つれないんだから」


「オーナー、VIPさんがお呼びです!」


「はいはい、いま行くわ」


 麻の服を着崩してじゃらじゃらとアクセサリーをつけ、化粧を施した女性がお店に戻る。

 そこはかつてケンジがオープンしたホストクラブにして、荒らされた店であった。

 だが、現在は派手な看板と装飾、魔法の明かりで荒れた様子はない。

 街を仕切る人たちをバックにつけて、ケンジはホストクラブを再建したのだ。

 いまでは、眠らない街カブキチョーを創り上げた最初の店舗として有名になっている。


「さぁて、今日は港の方に行くッスかね! あっちは他所から流れてくる人も多いスから」


 かつて敵対した色っぽい女性は、いまやケンジをサポートするオーナーだ。

 ホストクラブのみならず、女性が接客する店舗やショーパブ、少々過激な店から軽めのメンズバーやガールズバーまで、業態は多岐に渡る。

 ケンジのホストクラブ再建から年月が過ぎたいま、わざわざ海や山を越えて、はるばるカブキチョーにやってくるお客様も多い。


 ただ、ホストクラブの店長となっても、オーナーからグループ店舗の教育係を任されても、ケンジは変わらなかった。

 店長業務は後輩に任せて、来店されたお客様を歓待する。通りで道ゆく人に声をかけて店に招く。

 教育係として日本の”おもてなし”を異世界に持ち込む。いわゆる知識チートである。


 もちろん変わった点も、増えた業務もある。

 それは――



「よし、今日はこのあたりでやるッスかね!」


 胸と背中に看板をぶら下げたケンジが一人意気込んで。


「ぱーりらっぱりらっぱりら求人!」


 声を張り上げた。

 独特のふしまわしが港町の片隅に響き渡る。

 暗い倉庫街に、人気のない路地裏に。


「ぱーりらっぱりら高収入!」



 ――従業員の新規募集である。


 発展したカブキチョー、増えた店舗数、他所からやってくるお客様の増加に伴って、従業員が不足してきたのだ。


「ぱーりらっぱりらっぱりら求人!」


 体の前後に看板をぶら下げたサンドイッチマンスタイルで、ケンジは声を張り上げる。

 夜にもかかわらず、住人からの怒声はない。

 大声をあげるケンジが、カブキチョーの発展に引っ張られて繁栄を迎える港町の功労者だと認められているのだろう。

 それとも夜の求人活動により、路地裏で暮らす男や女や少年少女が雇われて教育され、治安改善に役立ってきたからか。


「ぱーりらっぱりらでアルバイト!」


 あるいはクセになる節まわしが耳に残って、騒音と認識できなくなったか。


 店が荒らされて、ボコられたコーハイの落とし前をつけるべく、ケンジが倉庫の会合に乗り込んだあの日以来、港町は変わった。

 後ろ盾を得たケンジはホストクラブを再建、オーナーに様々な業態の知識を提供。

 オーナーは次々に新たな店舗をオープンさせた。

 他国や他の港から人や荷がやってくる港町だというのもよかったのだろう、繁華街は賑わいを見せる。


 いかがわしくも、夢と笑顔があふれる夜の街へ。

 いらっしゃったお客様も、働く従業員も、夢を見られるケンジの理想の夜の街へ。

 不思議なことに、かつてないほどピンクな業態の店でも、咎める女神の神託はなかったという。



「ぱーりらっぱりらっぱりら求人! ぱーりらっぱりら高収入! ぱーりらっぱりらっぱりら求人! ぱーりらっぱりらでアルバイト!」



 満面の笑みを浮かべて、ケンジは歌いながら夜の街を練り歩く。

 元の世界の夜の街で理想と現実に打ちのめされたケンジは、異世界で充実した日々を送っていた。


 知識チートを活用して、”夜の王”として。

 きっと、これからも異世界初のホストとして仕事を続けていくことだろう。



「俺のかぜっ俺のかぜっおっれぇのーかぜーっ! かっせっげるっおとこぉに俺はなるー!」



 ちなみに。

 サンドイッチマンスタイルと謎の歌は、人材募集の方法として異世界の港町で定着した。

 以後、港町では昼夜を問わず練り歩く男たちの姿が見られたという。

 クセになるメロディは、異世界でも中毒性が高かったようだ。

 いつか耳にした転移者・転生者は頭を悩ませることだろう。

 あるいは発展したナイトタウンに喜ぶかもしれないが。



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