グレタさんに平穏を

@uraaa3309

第1話


「いや、だから彼女は活動家なんかじゃなくて生贄なんだよ。」


 食卓で交わされる会話はいつもよりいくらか熱を帯びていた。いわゆるネトウヨ的な思想を持つ父はグレタ・トゥーンベリのことを大人が入れ知恵をしている活動家だと評する。確かに彼女のバックに支持団体がついていることはほぼ間違い無い。だが彼女が国連で行った演説を見れば彼女のあの思想が本物であることがわかる。あの熱量を他人から唆されて生み出すことは無理がある。故に彼女の思想と熱量をなんらかの組織・団体が政治的に利用しているのだろう。それは環境保護により生まれる利権を狙ってる組織かもしれないし、欧米先進国に対する圧力を目的とした国家的な組織かもしれない。


 だがそんなことはどうでもよくて、年端もいかぬ女の子が、いい歳した中年おっさんや果ては一国の大統領からバッシングを受けていることが問題なのだ。バッシングを受けるべきは彼女の支持団体であり、グレタ本人ではない。彼女に関するニュースが挙がれば、そこのコメント欄は非難轟々の嵐。


 若さ、主張の簡潔さ、感情をあらわにしたスピーチは多くの大人を動かした。それと引き換えに、彼女には「環境保護こそが我が人生の命題である。」という強迫観念に呪われる。人類が先延ばしにしてきた課題が彼女を呪ってしまった。あったかもしれない、彼女の穏やかな人生を生贄に、我々は環境問題に取り組む。


 とある大統領が「友人と古い映画でも見て落ち着くべきだ。」と揶揄したが僕はこれにある意味で賛同している。大きな資本がエコビジネスに投資され始めたいま、彼女は環境保護に関心を向けずに古い映画でも見て友人と駄弁っていてほしい。その世界線の方が僕はずっといい。

 

 

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