キリグ
キリグは意味もわからず
意味を持って生まれた
なんでも知っていて 何も知らなかった
少女の小さな庭先の木陰と
陽射しが抱き合う場所
そこは世界を知るための唯一の扉
きみのもとに
毎日誰かがやってくる
毎日何かがやってくる
そして遠い昔と近い未来に
目をやって語り出す
薄浅葱の親は言う
この世には億千の人がいて
彼等は考え、さまよい、踊るのと
夜を旅した穴は言う
果てしなく冷たい孤独の先には
必ず朝がきて救われると
素直になれない可憐な兎は言う
どんなに恋し焦がれても
自分の罪が行く手を阻むときがあると
二つの蕾を最後に愛した男は言う
隔たりなく与え誰をも愛せば
望んでなくても必ず帰ってくると
キリグはまだ少しだけわからない
満開の花畑の子供たち
微笑みながら見守っている
二輪の燦然としなやかに
咲いた花たちは言った
あの人は一人じゃなかった
いつだって皆の心に生きている
朝から晩まで白と黒の鍵盤の上で踊る
彼はピアノに咲く男
蛙のような狼は言った
彼女がどんなに喰らおうとも
その罪さえ美しく流し去ってみせる
神様のいない所まで逃げてみせると
彼女は狼を喰らう兎
春の星座を唄う少年は言った
会いたいと望めば望むほど
遠くの誰かが泣いている
それすらも包み込む寛き心が世界を救う
またいつかきっと会えると信じている
十滴の太陽を握りしめ
そう あれは空にあいた穴
そして薄浅葱色の親に言った
考え、さまよい、踊った先にある
歓喜の歌が奥底から人生を豊かにする
その慈しみが、それが自分であると
薄浅葱の涙がそっとキリグに降り注ぐ
とうとう扉が閉まるとき
また新しい季節が巡ってくる
私の庭に咲いた愛しい子
そっと知識の間で寝かせよう
次は何が咲くのだろう
これは私の庭先にキリグの花が咲いた話。
キリグの咲いた庭先で 小河 @ua0-100
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