停車駅

「いやぁ、だってあなた私がいなきゃ死んでたでしょ?」


 読んでいた本から顔を上げることもなく、あぐねすは答える。

 どうしてあの日おれを連れて帰ったのか、あぐねすに聞いた時の答えがそれだった。

 実際、衝動的に施設から脱走して何日も休まず歩き続けていたのだから、行き倒れは確実だっただろう。どうせ行くあてもなかった――おれは、あの場所で終わりにしようと思っていたのだから。


 今の状況に不満があるわけではない。あぐねすが、おれを連れて帰ることを選んだのだから。

 きっとあぐねすからすれば、ただ面白そうだからとか、何となくみたいな気まぐれでしかなかったのだと思う。それでもおれは、あぐねすに選ばれたような気がして確かに嬉しかった。

 あぐねすの選択に間違いはない。これからも、この先も、あぐねすは絶対に正しいのだから。


 そうか、と返したおれに、あぐねすは、興味無さそうに近くのテーブルに置かれた赤い表紙の本を指さすだけだった。取って渡せ、という意味だろう。さっきの本は読み終わったのか。

 本を取って渡すと、あぐねすは無言で受け取り、本を開く。

 いつものことだが、今は何となくそれが寂しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

轍棺背負い1つ目男の終着駅 イトヲヨヲキ @kirimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ