魅入られる

髙月晴嵐

ある子供の記憶。

夕日の照らす道、僕の足取りは靴が地面にくっついたように遅かった。

学校にいるのも嫌だが、家にも帰りたくなかった。特に今日はそうだ。

そのせいか、僕はいつもとは違う帰り道を選んでしまい、道に迷った。


ふと、横を見ると、神社が見えた。夕陽に照らされて、河原屋根がオレンジ色だった。

ここに神社があったなんて初めて知った。

ふらりと近づく。

孤独な僕には古ぼけたその外観がとても趣があるように思えた。


鳥居を潜ると空気が洗練されたというか、温度が低くなった気がする。

ここはまだ冬が残っているみたいだ。


賽銭箱の前で手を合わせる。

僕は賽銭がなかったので、積もった落ち葉を取り払ってあげることにした。

賽銭箱の中から白い蛇がにゅっと出てきた。

蛇と僕はじっと見つめあった。赤い目に僕が映っても不思議と恐怖はなかった。

陽が傾いたのだろう、木々の間からこぼれ出した暖かい夕陽が僕を包み込んだ。


もうこんな時間だ。帰らないと怒られる。

僕は急いでランドセルを背負って道を戻った。


でも、振り向くと

景色が少しおかしいことに気づいた。

帰り道は曲がりくねって、どうやっても家には帰れなかった。

最後にはまた先ほどの神社に着いてしまうのだ。

僕は走った。

景色が少しおかしいことに気づいた。

帰り道は曲がりくねって、どうやっても家には帰れなかった。

最後にはまた先ほどの神社に着いてしまうのだ。

僕は走った。

景色が少しおかしいことに気づいた。

帰り道は曲がりくねって、どうやっても家には帰れなかった。

最後にはまた先ほどの神社に着いてしまうのだ。

僕は走った。

景色が少しおかしいことに気づいた。

帰り道は曲がりくねって、どうやっても家には帰れなかった。

最後にはまた先ほどの神社に着いてしまうのだ。。。。





僕は神社の木が飛び出た、座れそうな部分に座った。

僕は疲れた。


僕は帰らないことにした。

親と喧嘩していたから、それでも構わないのだ


足に蛇がすり寄ってくる。すべすべした鱗が気持ちいい。


そう言えば、何でこの蛇は白いんだろう。

図鑑で見たものとは違う。


他の蛇とは違う白い姿に僕は自身を重ねた。


僕は何だかずっとここに居たくなった。

僕はようやく自分の居場所を見つけたのだ。


僕はここを出ない事にした。


蛇に案内されて神社の中に入った。

外の陽はすでに暮れていた。

春なのに寒かったが、布団が置いてあったので凍えずに済んだ。


朝、神社は霧に包まれていた。


耳を澄ますと町内放送が聞こえてきた。

どうやら街の人たちが僕のことを探しているようだった。

僕は半分夢の中にいたせいで、その放送におはようと返事をした。





僕は病院のベッドで目覚めた。

神社について聞いたが、僕を見つけたというおじさんは首を捻っていた。


次の日の帰り道、

戻ってみるとそこに神社はなかった。





あれ以来、僕は変な人が見えるようになった。

街中を歩いていると、変な人があちらこちらにいた。

壁から生えている人、屋根の上に立っている人、くるくる回っている人。

でも、みんなは見ないフリをしていたので、僕も見ないふりをした。



僕はその人たちには近づかないようにしていたが、

ある日、遠足で乗るバスにその人たちが一緒に乗ってきた。


僕は先生に体調不良を訴えてトイレに行った。


バスが出発して僕と一緒に付いてきた担任の先生が取り残された。


先生が話しかけてきた。

先生は僕のことを心配しているようだった。

僕は先生の不安そうな顔を見たくないから、学校のこと、神社の事、変な人が見えることも言わなかった。

会話が止まる。


雨が降り始めた。


僕と会話する先生の携帯が鳴った。

携帯を耳に押し当てた先生の顔がみるみるうちに青ざめた。

バスに事故が起きて、クラスのみんなが巻き込まれたらしい。

僕をいじめていた子も死んでしまった。



僕はしばらく学校を休むことになった。


雨は何日も降り続いた。


梅雨明け、町はあるニュースで騒いだ。

意識不明だった女の子の意識が回復したらしい。



クラスメイトということで、僕はお見舞いに行くことになった。

病院には変な人たちがたくさんいた。


でも、その子の部屋だけには一人もいなかった。

彼女は僕を見つけると笑った。

赤い瞳に僕が映った。

彼女が僕に抱きついた。

いつの間にか白くなっていた白い髪が視界に迫った。


僕は恥ずかしくなったので、彼女を引き剥がそうとしたが、

周りから人が消えたのでその必要性もなくなった。


彼女に手を引かれて病院から出た。

道はいつかの光景のように曲がっていた。

標識も信号もグチャグチャで読めなくなっていた。


僕らの歩くすぐ後を土の中から変な人たちが生えていく。


山の中に入ったが、今度は逆に道が真っ直ぐに山頂に伸びていた。

鳥居に着いて振り返ると、町の真ん中に黒い何かが見えた。


変な人が集まり出して、一つの塊になっていた。

見ている間にも少しずつ大きくなっていく。

ついにこの町で一番高い建物より大きくなり、それは空の強大な黒い影になった。

その影が町を覆い尽くした。


僕は鳥居の外の光景をただ眺めていた。

横には僕と手を繋ぐ彼女がいた。


「ずっとここに居てもいいよ」


彼女は僕に微笑んで言った。

太陽が凄い勢いで沈んだ。

月が代わりに顔を出したが、また太陽と入れ替わった。

空が回転しているみたいだった。


入道雲が吹っ飛んで、うろこ雲が流されていく。

日が経って雪が降っても救助の人たちは町に来なかった。


僕は全ての音が途切れた町を見ていた。

ここに町があったことすら外に人たちは知らないのだろう。


「さようなら」


僕は彼女の手をとり、鳥居の続く奥の方へと進んだ。


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魅入られる 髙月晴嵐 @takatsukiseiran

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