『谷山浩子』が好きな話
@azuma123
第1話
酒に酔っている。止め時がわからない…というよりは止め時はないので、飲み始めると一生飲んでしまう。さすがに最近、野菜を全くとっていなかったため、玉ねぎと人参の味噌汁を作った。日本酒がなかったので麦焼酎を投入した。変なパンチのある味になった気がするが、まあ、身体にいいものは食べておくべきだ。
かなり眠い。どうにも頭が働かない。わたしは『谷山浩子』が好きだ。知っているだろうか?アーティストである。音楽の人だ。童話のような歌を歌っている。いつか『谷山浩子』を聞いていたところ、突然目の前の風景が変わった。仕事を終わらせ会社の帰り、駅のホームで電車を待っていた次の瞬間、わたしの立っている場所は陸橋の上だった。
時分はちょうど夕間暮れである。夕日が差し込んでおりはるか下に見える水面は真っ赤になっていた。ふむ、と思い陸橋を歩いてみた。片側二車線あるかなり大きい橋ではあるが、車一台、人っ子一人通っていない。突然、水平線に半分だけ見えている夕日が動いたと思ったら、目の前にある山をむんずと掴んでこちらにぶん投げた。山は簡単に根本から引っこ抜かれ、わたしのいる陸橋めがけて飛んできた。とっさに急いで逃げようと思ったが、落ち着いて見るとこちらには届きそうにない。大丈夫だろうとそのまま山が落ちるのを見ていたところ、案の定、山は陸橋には届かず手前の川に着水した。大きな波があがり、波は一瞬陸橋を飲みこんだ。わたしは手すりにしがみついて、なんとか難をしのいだのだ。
波が落ち着くと、川には大きな山がそびえたっていた。川の水は全てはね上がり、干からびてしまった。そこにはもとから山しかなかったというような風景があった。先ほどまで黙っていた夕日はわたしにロープを投げつけて、「下におりたらいいものを見られるぜ」と言った。ロープの片方を陸橋の手すりにくくりつけ、もう片方を自分の腰にくくりつける。そのまま陸橋から飛び降りると、つま先五センチメートルほどのところで落下は停止した。腰にくくりつけたロープをほどき、地面に下りる。先ほどまで川だったそこは、今は山道になっていた。
山道を歩きはじめると、向かいから歩いてきていた一匹のニワトリと目が合った。ニワトリはわたしを見るやいなや、「すみません、鳥なのに飛べないんです」と顔を赤らめて呟いた。わたしが「気になさらず、ペンギンも鳥ですが、飛べないんですよ」と笑うと、ニワトリはウフフと笑ってわたしの横を通り過ぎ、そのまま山道を外れて脇の崖から落ちていった。一連を見ていた夕日は笑いをこらえているような顔で「な、ニワトリの自殺なんて、珍しいものを見られただろう」と言った。
イヤホンを外すと、職場最寄りの駅のホームに戻っていた。もうすでに、電車を五本も見送ってしまったようだ。早く帰ろうと、わたしは家路を急いだ。
『谷山浩子』が好きな話 @azuma123
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