第3話 最期
「けどなあエルネスト」
薬屋の婆様の言葉を受け取ったリカルド親方は怒りも
「お前も、もう少し大人になってやっちゃどうだ」
「はい?」
エルネストは思わず首を傾げました。まるで彼や他の工房の面々にも非があるかのような、あのガルティエロを
疲れていらっしゃるのだろうか。エルネストは真剣に親方の体調を案じました。
なるほど、工房は現在ある教会の壁画の製作を任せられており、連日の激務に誰もが文句を垂れていました。テンペラ画の作業は何しろ
ただそれにしたって、とエルネストは思いました。疲れて気が弱っているにしたって。親方の口から、あの悪魔を
「いるんだよ世の中には。あいつみたいなのが。誰かを
「思います」
ですが、と続ける前に、だったら、と親方が言い被せてきました。
「辛抱してやれ。ガルティエロはどの助手よりも捌ける。この工房に貢献してる。違うか」
「それはそうかもしれません。けれど」
「西の壁の、天使に追い払われる悪魔の絵。俺はあれをガルティエロに任せるつもりだ。中身はどうあれ仕事熱心なんだあいつは。同じ熱心さを周りにも求めようとして、ままならなさに
親方は
「親方!」
ミラノにおける
ヴィットリオが死に、ウーゴが倒れても、真っ先に世を去った親方から残りの仕事を
「ああもう! クソが! どいつもこいつも役に立たねえな!」
徒弟にまた死者が出たのです。死人をさえ
予言された『終わりの日』が来たことをエルネストは痛感しました。
仕事場はまさに地獄でした。ガルティエロはいよいよその悪魔的本性を
何か下手を打った者は今だとばかりに
そんな中、
エルネストは親方の言葉の一端を認めないわけにはいきませんでした。ガルティエロは確かに仕事熱心です。彼はただ、
そんなガルティエロまでがとうとうペストに倒れたのは、4月の半ば頃でした。
エルネストを含む残された徒弟たちが大いに喜んだことは言うまでもありません。
問題は壁画でした。たとえペストが
エルネストはガルティエロが描きかけていた西の壁の悪魔の絵を塗り潰しました。
更にその上から、ガルティエロその人を描くつもりで悪魔の姿を描き直しました。文句を言う者はいませんでした。これが悪魔というものだと納得しない者はない、
こうしてガルティエロの悪魔的な
十八世紀の半ば頃に教会の壁から
工房の悪魔 夕辺歩 @ayumu_yube
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