第5話 ごきげんよう
エレベータが地下1階に到着しドアが開く。
四人は表に出ると従業員用の通路に出た。
メイドやホテルマンたちが慌ただしく動いている。
「ごきげんよう!」
高村を見ると皆笑顔かつ礼儀正しく一礼をした。
さすが超一流ホテルというだけはある。
ピートは尻尾を高くあげ美鈴達の前を優雅に歩いている。
「西門様こちらへ」
警備室の前に移動する。
「こちらに映っているのが1階フロントでございます」
警備員たちもホテルのジャケットを着てエレガントに一礼してきた。
よかった。どこぞの軍隊みたいな警備員とは違うな。
フロントは警官が詰め掛け、ホテル側と交渉しているようだ。
FBIと思われる男と警察が話している。
一般道に出る入り口にはテレビ局や怪しいバン等もが止まっていた。
「それでは行きましょう」
高村は地下駐車場に案内してくれた。
「こちらのお車ではいかがでしょうか」
超高級外車のリムジンだ。
「これは流石に目立つだろう」
「そこがこの高村の作戦なので御座います! ――まさか山本様がご乗車になっているはと思われません」
高村さん、私そんなに貧乏そうですか……。
「いえ決してその様な事では御座いません! 山本様は気品が御座います」
もういいよ。
「更にこの車は私の個人的な趣味で、かなり改造しておりますので安全です。時間もございませんので早くお乗りくださいませ」
ホテルマンのスーツを着た西門が運転手の帽子を深くかぶり
「じゃ高村さん行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ! ご武運を」
西門はリムジンに乗り込みゲートをくぐる。
美鈴達は後ろに乗り込み初めて見るリムジンの中を興味深く見ていた。
「冷蔵庫が付いてる! シャンパンも!
シン! これを見てみろ! ほらほら!」
はしゃぐ美鈴を新堂は見かねて
「班長あんまり触らない方がいいですよ」
「いいの! 滅多に乗れないんだから。ほらやってみろって!」
美鈴に言われるままボタンを押すと運転手側の席と間にシャッターが下りた。
「たしかに」
ピートは色んな所が開いたり光ったりするものに夢中で飛び回っている。
「警察がこっちを見ています、大人しくしてください」
「はーい」
美鈴はご機嫌だ。
リムジンは警官に止められたが、すんなりと通してくれた。
「あぶなー」
美鈴は一般道に出たのを確認しほっとしていた。
ピートは美鈴の膝に乗ろうとすると後ろ脚でボタンを押してしまい美鈴側の窓が開き始めた。
「ピート駄目だよー」
美鈴は慌てて窓を閉める。
「найденный(見つけた)」
リムジンの後ろに黒いバンが走る。
◇
「トオル、面白イ事ニナッテルヨ」
「ん? 何?」
「篠原重工ノシークレットデータガネット上ニ落チマクッテル」
アダムは楽しそうにデータを眺めている。
「スゴイヨ、ウイルス研究トカビューティフルデス」
神崎透はアダムが見ているデータに気になる箇所があった。
リハビリ中の美鈴の写真と数値が表示されている。
「この女は確か」
アダムは食い入るようにデータを見ていた。
「オーマイガー山本サーン! 何故イキテルノ?」
データを見ながら神崎は舌打ちをした。
「嘘だろ、もう七年だぞ。死んでなかったって事か……。ちょっとキラ呼んでくるわ」
神崎が奥のドアを開ける。
血がこびりついた部屋で椅子に座っている若い男がいた。
男の前には人と言えるかどうかわからないモノが蠢きながら転がっている。
「キラ、山本美鈴って刑事覚えてる?」
吉良は虚ろな顔をしているが眉毛がピクリと動いた。
「ああ連れてこようか」
よたよたと部屋の戸棚からファイルを探す。
ラベルには『山本美鈴』と書いてある。
何度も何度も手に取ったんだろうか指紋がべたべた重なって見える
表紙をめくると美鈴の無残な写真が貼ってあった。
何枚も何枚も――
最後のページにはジップロックの中に皮のようなものが入ったものが保管されていた。
「可愛かった。今は全て俺のもの」
ビニールを少し開けて中を嗅ぐ。
吉良は匂いを嗅ぎ恍惚な目を写真に向け自分の股間を触りだす。
「キラ」
「?」
「それがさー、死んでなかったみたいなんだ此奴」
神崎が吉良にノートPCを見せる
「これって絶対あの刑事だよな」
「!」
吉良は未詳犯罪者リストでは『コレクター』というコードネームを持っている危険人物だ。
異常性犯罪者である。
お気に入りの人間を殺すと一部を『記念品』として必ず手元に残す。
証として大切に持ち歩き閲覧することで当時の殺戮の情景を思い出し快感を得るのだ。
吉良は儀式として死体を焼き払う。
その儀式で魂や香りが最後の記念品に入り込むと本気で信じている。
「だからか」
「どうした」
「前からコレから魂を感じなかったんだ――トオルがあの時爆弾を入れると言った時から嫌だったんだ!やっぱりちゃんと燃やしてしまわないとダメなんだ……俺のモノになっていない!」
「悪かったってゴメン」
「どうしてくれるんだよう」
「わかったよ、じゃあもう一回殺そう」
「今度は“ちゃん”と殺してあげないと駄目だ」
やれやれという感じで神崎はアダムを呼びにいく。
「次は彼女の心をもっと傷つけないと昇華しない」
吉良はもう一度画面を見ながら微笑んだ。
GHOST GIRL.hack(ゴーストガールドットハック) 東郷 零士 @r_togo
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