第28話 封印
「己の力に溺れ、脇を甘くしたのもまた運命か」
老婆は、再びキセルで火鉢の淵をコン、と叩いた。
魔術師の欲望はまた更なる欲望を生み、まだ手にしてもいない秘宝植物に思いの全てを捧げ、いかにして手に入れるかを四六時中考えていた。
それも秘宝植物の神秘の力が作用した証じゃ……、と老婆は言った。
初代酋長たちがこの村に到着した頃、魔術師は前後不覚の酩酊状態、欲を喰らう醜い物体と化していた。
魔術師を倒す為の下地はもう出来上がっている、といった所か。
ずらりと並んだ集落の軍勢は皆、ただ黙って初代酋長の後ろを固め、魔術師の前で立ちはだかった。
無頼漢たちは言葉を失い、力なき傍観者となった。
……欲に
微動だにしないまま初代酋長は、腹の底から響き渡る声を歌に乗せ、辺り一帯に轟かせた。
「うっ、ううううう……っ」
魔術師は頭を抱えて地面に倒れ込んだ。
「やめろ……!」
たった一度の歌を聞いただけで、魔術師は激しく苦しみ出した。
初代酋長はただ黙って苦しむ魔術師を見下ろしている。
後ろで待機していた軍勢は洞窟の方へと向かい、旅の使いの者と霊能者を始め、それまで捕らえられていた全ての人々を救出した。
「助けてくれ……!」
耳を塞ぎながらもがき苦しむ魔術師の体は、半分が黒い煤の様になり始めていた。
次の瞬間、それまで黙って見ていた初代酋長は目を激しく見開いた。その形相たるや、額にはミミズの様に膨れ上がった血管が痙攣を起こして脈を打ち、飛び出さんばかりの眼球は赤く内出血し、鬼か般若かと、見る者全てが戦慄に震えるほどの、この世のものとは思えぬ恐ろしさだった。
初代酋長の眼力は、強大な力を誇る呪術師の表れでもあった。そのまま目の動き一つで、煤になる寸前の魔術師を洞窟へと封印した。
皮肉にも魔術師は、目障りな者を投獄する為に造り上げた洞窟へ、自らが封じ込められてしまう事となったのである。
それまで虐げられていた者たちは一斉に歓喜の声を上げた。笑う者、泣く者、それぞれが一様に思いの丈を放出した。
しかし魔術師の執念深さは、事をそのままでは終わらせなかった。
「……我はいずれまた現れる……お前の子孫の体に宿り……必ずや秘宝植物を手に入れる……必ず……必ず……!」
そして魔術師の声は洞窟の中へと消えて行った。
「それは我が先祖……霊能者へ向けられ放たれた言葉だったのじゃ。そして今日まで語り伝えられてきた。気が付けば言葉そのものが呪いとなって我ら血族に巣食っておった。何百年も経って、とうとうその時が訪れたのじゃ」
「という事は、お孫さんが内臓している『魔』というのは、その魔術師の事なのですね?」
なっくんの言葉に老婆は黙って頷いた。
俺もなっくんも黙って老婆のシワだらけの顔を見つめ、次の言葉を待った。
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