第23話 メッセージ
「長老!!」
俺は跳ね上がる様に上体を起き上がらせた。
「わっ!」
反射的に聞こえる短い絶叫。
一人、尻もちをついているのは総代だった。俺の叫び声で腰を抜かしたらしい。他の皆も雁首を並べて俺を覗き込んでいる。
「ああ、びっくりした……」
総代が額の汗を拭っている。俺は眠っていたのか。草むらの中、辺りを確認していると、宮司が目線まで屈んで言った。
「嵐蔵くん、何か分かりましたか?」
俺は目を擦りながらさっきの事を思い出した。
人間の姿になってから、なっくん以外の人間と言葉を交わすのは初めてだ。
俺はゴクリ……と緊張を呑み込んで、口を開いた。
「夢を見ていました。集落の半世紀後の時代の夢を。そこに俺……というか折座はいて、まるで折座の頭の中を見ている様な、彼の記憶の様な夢でした」
俺の短い説明に宮司は深く頷き、続けた。
「何かメッセージの様なものはありませんでしたか?」
宮司の問いかけに、目を閉じ思い返した。
「……折座の父はこう言っていました。確か……。『冬至が教えてくれる』、『時が迫った時はしるしを見逃さず直感に従え』、と。それから村の長老は、『ついに時が訪れた』、とも」
宮司は唸りながら腕組みをした。
「そういえば!」
なっくんが突然何かに気づいた様に話し出した。
「去年、嵐蔵と初めて会った日、あれは確か冬至の日だったよ。お母さんたちが話してたのを覚えてる。『冬至の日が雪だと翌年は豊作になるって言い伝えがあるけど、今日みたいに嵐で雹なんて天気の場合はどうなるのかしらね』って。だから覚えてるんだ。嵐蔵が現れたのは間違いなく冬至の日だったよ」
突然、色褪せていた目の前の風景に、鮮やかな色が蘇ってきた。
言葉を持たない何かが、全身全霊で何かを伝えようとしている様に思えてならない。
思いを巡らせていた時ふと思い出した。そういえば、以前移動した時。祈祷所の中で目が合った五代目酋長らしき人物は、俺を見たまま、すり替えたとされる鈴を入れた『水鏡』を指差していた。忘れていた。あれを探すのが先決だろう。
俺は宮司に尋ねることにした。
「水鏡? いいえ、その様なものは……」
俺の問いかけに、宮司は困惑した様な表情を浮かべていた。
また、風景の色がなくなっている。
……進め……そのまままっすぐに……
主様だ!
そうか。ここへ来たのもまた何か意味があるからだ。行くしかない。
「今の声! 聞こえましたか?!」
とうとうヤーモンやドラゴン以外にもこの声が届く様になったのか。総代が興奮気味に、かつ控えめに、口元を押さえながら言った。
「皆さん、行きましょう」
この言葉で宮司にも聞こえたのだと分かった。もちろん、なっくんにも聞こえている。何せ彼は『始めの民』の末裔なのだから。
俺たちはまっすぐに『秘宝植物』の畑へと向かった。
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