第21話 意外な事実



 何事だ?


 俺は戦慄にひきつる宮司の顔をキョトンと眺めていた。宮司は固まったまま俺の顔を凝視している。

「あ、あなたは……!」

 その尋常ではない様子に総代が反応する。

「宮司、どうされたんですか?」

 そう言ってから総代は視線を俺の方へと移した。

「あ、あなたは……? え……っと、どなたさまでしょう? あ、申し遅れました。私は……」

 困惑した表情で頭の中をまとめようと必死になっている総代の目の前に手を出し、俺は静止を促した。

 そう。俺はまた人間の姿になっている、と気付いたからだ。

「あの、実は……」

 横からなっくんが口を開いた。

した時に嵐蔵は時々人間の姿になるんです」

 あまりにも現実離れした事をこんな子供にさらりと言われて、もしも取り乱したなら沽券こけんに関わると思ったのか、いい大人二人、混乱を隠そうとする余り、互いの顔や俺たちの顔を交互に見る鳩の様な仕草を披露する羽目となった。


「と言う事は、こちらの方は嵐蔵くん……?」

 総代が恐る恐る聞いてきた。

「そうです」

 なっくんが答えるや否や、宮司がひときわ大きな声でかぶせてきた。

「いいえっ、あ……、もちろん、君は嵐蔵くんなのでしょう。いや何……、失礼な言い方をしてしまい申し訳ない。ですが、あの……」

 宮司はしどろもどろで、どこか意味深だった。

「宮司さん、何か知っているんですか?」

 なっくんが問いかける。

 遠目に枯れて行く植物を一瞥いちべつし、悲しい表情を振り払うように宮司は言った。


「私は彼の……今の嵐蔵くんのお顔を見たことがあるのです」

「詳しい事をお聞かせ願えませんか? 宮司」

 総代が優しく支える様な声で語りかけた。

「古文書と一緒に保管されていた絵が、彼の肖像画だったのです」

 どう言うことだ? なぜ俺の肖像画が……?

「決して隠していた訳ではないのです、総代。まさか今回の事にあの肖像画が関係しているとは思わなかったものですから……」

 宮司は申し訳なさそうに言った。

「ええ、もちろん分かっています。それで、その……、そちらの人物はどなたさまなのかも、お分かりなのですか?」

 総代の問いかけに、少し間を置いてから宮司は答えた。

「彼は、かの五代目酋長のご子息であるかと」

 一瞬訳が分からず、俺たち三人は宮司を見つめたまま立ち尽くし、絶句した。

「もちろん、姿は違えど君は嵐蔵くんです。ただ、驚異的なが、時を急いでいる。これまでの事を考えてみても、そう思えて仕方がありません」

 宮司は深刻な顔でそう語った後、俺の方へとゆっくり近づいてきた。

 まっすぐ俺の目を見つめながら、両手で肩を掴む。

 深く息を吸い込む。

 そして意を決したように言った。


「さあ、何か思い出せませんか、折座おるざさん」


 俺の名……!! いや、俺は嵐蔵だ。……待ってくれ、何かが来ている。何かが分かりそうな……!!

「嵐蔵! 嵐蔵! 嵐蔵……!!!」


 俺を呼ぶなっくんの声が意識の向こうに遠ざかっていった。

 

 

 

 




 

 

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