第18話 移動



「……つまり、これまでの事を踏まえて君は、この銅の鈴こそが本物のご神宝の鈴であり、ここにある鉛の鈴はレプリカだと言うのですね?」

「はい」

 なっくんの言葉に宮司は考え込んだ。

「私たちは決して君の言うことを疑っている訳ではないのですが、何か進展が欲しいものですから……。どうでしょう。君たちがその、をした時の様にさせては貰えないものでしょうか」

 総代が言葉を選ぶ様にして願い出た。

「いいですよ。それじゃあ、この鈴を手に持って下さい」

 なっくんは総代の手に鈴を置いた。

「こうして目の前で鈴を鳴らしてみて下さい。それだけです」

 なっくんは顔の前で鈴を鳴らす仕草をして見せた。

「こうですね?」

 総代は鈴をつまみ持った手を左右に振った。ところが、鈴から発せられる音はカチカチと金属音がぶつかる様な音だけ、ちっとも響かない。

「あれ? どうして?」

 総代は何度も繰り返す。だが無音だった。

「宮司がやってみて下さい」

 総代は鈴を宮司に手渡した。しかし結果は同じだった。

「君でなければダメなのかも」

 そう言い、宮司はなっくんに鈴を手渡した。

「ささ、鳴らしてみてください」

 宮司の言葉に促され、なっくんはいつもの様に左右に手を動かした。



……チリ……、……チリ……、



「あれ? いつもみたいに響かない。どうしてだろ?」

 何度試しても変わらない。

 なっくんは腕組みして考え込んだ。

「そうだ」

 くるりと振り向くとなっくんは、伏せをしている俺に言った。

「嵐蔵、こっちにおいで」

 俺は立ち上がり、なっくんの目の前に座った。

 なっくんは俺と向かい合うと、もう一度鈴を左右に振った。



……チリン、チリン、チリン……



 鈴の音が共鳴すると同時に地面から風が沸き起こる。轟音が風を伴い、部屋中を祓う様に駆け巡った。

 最近はすっかりがおなじみになっていた俺たちは、またどこか別の世界に行くのだろうと高をくくっていたのだが、連れて行かれた場所はこの神社の奥にある宝物殿の前だった。それでも宮司と総代は驚きを隠せないでいる。



「こ、これがその、君の言うなんですね」

 宮司は精一杯平静を装っている。

「でも今回はと言ったところでしょうかね?」

 総代は少し茶化し気味に言い、余裕を見せようとしている様だった。それでも額には汗が滲んでいる。

「この扉を開けてもいいですか?」

 なっくんの問いかけに対し、宮司が口を濁す。

「この宝物殿は、ご開帳の時しか開けてはならない事になっていて……」

 すかさず総代が言葉を被せる。

「宮司。事が事ですよ。神の思し召しなのでは?」

 愚の骨頂だったと言わんばかり、目を見開いた宮司は声高に言った。

「すぐに鍵を持ってきます」

 そのまま宮司は、もの凄い速さの摺り足で廊下の奥へと消えて行った。













 

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