第17話 告白




 良く晴れた日曜日。

 俺となっくんはいつもの散歩コースを歩いていた。

 意外な展開から始まった朝。ようやく気分を落ち着けての散歩となった。

 

 今朝目覚めた時の事だ。


 俺たちの身にふりかかった最近の移動騒動が、現実世界の時間に変化をもたらしていた。

 俺たちがする度に数日ずつ奪われて行く仕組みなのか、眠っている間に日数は精算されたらしく、そのせいで、なっくんの夏休みはとうの昔に終わっている形となっていた。

 それに気付いたのは、キッチンにある日めくりカレンダーが既に9月も半ばを過ぎていたからなのだ。

 今日がたまたま日曜日だったから良かったものの、いきなり想定外の事実を突きつけられ、そんな仕組みなど誰からも教わっていない俺たちにとって、朝からのこの試練はかなりキツかった。

 


「あなたたち、お休みなのに早起きね。いつもならお寝坊さんなのに。どうした風の吹き回し?」



 さっきの母のセリフだ。



「たまにはゆっくり朝の空気を吸って来るよ」



 どこか大人びた言い方をしたなっくんに、母は困惑した様な、同時に誇らしげな、そんな表情だった。

 目を閉じて思い切り深呼吸する。どこからか漂ってくる金木犀キンモクセイの香りが肺を通して身体中に広がった。

 早くも夏が過ぎ去ろうとしている。少しひんやりとする心地良い秋の風に、御神木の樫の木がざわめいた。いつのまにか俺たちはもう神社の境内に入っていたのだ。

「さて、と……」

 なっくんは呟くと境内の片隅にあるベンチに腰掛けた。俺はなっくんの足元に座り顔を見上げた。少し前かがみになり両肘を膝の上に乗せて座るなっくんの姿は、まるで少年の姿をした大人だった。何かを考えている様に遠くを見つめている。

 しばらくするとその視線の先に、歩いてくる人の姿が見えた。なっくんは待ち構えた様にゆっくりと立ち上がった。

「おはようございます」

 声をかけた人物は宮司だった。

「おはようございます。犬の散歩ですか? 早くから感心ですね」

「宮司さん、お話があるんですが、よろしいですか?」

「はい、構いませんよ。どうしました?」

 なっくんはポケットから銅の鈴を取り出した。

「この鈴についてなんですが」

 宮司は凍りついた様に身を固め目を見開いた。

「これは……!」

 宮司はなっくんの肩を掴むと辺りを見渡し言った。

「君、どこでこれを? ひとまずこっちへ!」

 俺となっくんはあの社務所へ招き入れられた。



 中へ入ると、香の香りが気持ちを解き放ってくれる様だった。

「ささ、ここに座って」

 素早く宮司はお茶を淹れ、なっくんの前に差し出した。

「ちょっと待っててもらえるかな。ここの総代も一緒にお話しを聞きたいから」

 そう言うと宮司は受話器を掴みダイヤルを回した。ここの電話は未だに年代物のダイヤル式の黒電話だ。

「あ、総代。私です。突然で申し訳ないのですが、今すぐお越し願えませんか。例の事でちょっと……」

 電話の向こうから手にとる様に様子が伝わってきた。二つ返事で承諾したのだろう。もう電話は切られているらしく、ツーッツーッとだけ漏れ聞こえていた。




 正味10分といった所だろうか。境内に飛び込んできたスーパーカブが、砂利をはじき飛ばしながら急ブレーキをかけた。その人物はもちろん電話の相手、総代だ。

 総代は被っていたヘルメットを、輪投げでもするかの様に素早くハンドルに引っ掛け、まっ先にこちらの社務所へと猛ダッシュしてきた。

「お待たせしてしまって!」

 息をきらしながらハンカチで顔の汗を拭っている総代の顔は真剣そのものだった。

 


 それからなっくんは、鈴が手に入った経緯と、これまでに起こった不思議な出来事を二人に説明した。

 

 


 



 

 

 







 


 






 


 



 

 

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