第13話 動乱
何だったんだ。あの洞窟、あの扉の中は。
すすり泣く女は一体どこへ……?
俺はいつもの様にリードにつながれなっくんと散歩をしながら、あの集落の事を考えていた。
まるで幽体離脱したかの様な体験の後、気付けばなっくんの部屋で二人、向かい合っていた。相変わらずなっくんは全てを見抜いていたから説明などは必要ない。今回のこの騒動で、なっくんの能力はどんどん研ぎ澄まされていっている。
いつもの散歩コース。公園の片隅に例年より早い白い秋桜が風に揺れている。
ジャングルジムで遊ぶ子供達の声は、他愛のない日常の風景に安堵感を添えてくれる。
公園の角を曲がると古くからある小さな電気屋がある。近づくにつれショーウィンドウに設置しているテレビから夕方のニュースが洩れ聞こえてきた。
「……◯◯町で昨日、民家の畑が荒らされているのを近くの住民が発見し110番通報……その他複数の畑で被害が出ている模様で……地元住民によりますと、同時刻に通り魔の被害も報告されており……」
俺となっくんは身を硬くしてガラスにかじりついた。
「本当にびっくりしました! 突然の出来事だったので何がなんだか……。ただ、黒い影に覆われる様な感じで、気付けば腕に刃物で切りつけられた様な傷が残っていたんです。本当なんです……!」
インタビューを受けた被害者が興奮状態でカメラに向かって話していた。
「この不可解な事件は他にも発生しており、似たような証言が複数報告されているという事です……」
さっきのインタビューに出ていた住民はこの近所にあるタバコ屋のおばちゃんだった。このニュースはこの町で起こった事を伝えていたのだ。
黒い影に覆われる様な感じだって? それがあの洞窟の中から抜け出て行った『魔』の事だとしたら? まさか。あれは何百年も前の出来事だ、と自分に言い聞かせ失笑しながらも、どこかその思いを拭えなかった。
立ち尽くしたまま考え込んでいるとテレビから悲鳴にも似た怒鳴り声が飛び出してきた。
「おかしいじゃないか! 何が既得権益だ! 何が利権だ!」
まだ学生といったところだろうか。一人の若者がカメラに向かって叫んでいた。
「あの、すみません! 落ち着いてください! さあ、こっちへ……!」
報道人が突然の乱入者にたじろいでいる。
「何で止めるんだよ! あんただって言いたいことはあるだろう!」
「そうだそうだ! もっと大事な事を報道しろよ!」
初めて見る光景だった。大人しそうな若者たちが拳を握り立ち上がっていた。
警察が出動する事態にまで発展しその騒動が収まる間際まで、理不尽だ、不条理だ、と口々に叫ぶ声が耳を覆っていた……。
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