第12話 洞窟
目を開けると俺は薄暗い洞窟の中に入っていた。すすり泣く女が入っていったあの扉の中だ。
一人の男がブツブツと独り言を言っている。傍らでは別の人間が小さな沼の中に足を踏み入れては出し、踏み入れては出しを繰り返している。
見た事もない奇妙な花が咲き乱れ、こじんまりとした山の様な突起部分からはどん、どん、という音とともに煙が吐き出されている。
洞窟の中とは思えないほどの広大な空間。別世界の扉を開けたと思っても仕方のない事だろう。
奥の方から何やらボソボソと話し声が聞こえてきた。
「……聞いたことがあるだろう? あのふた山離れた集落の事を」
「ああ。なんでも大層な宝を持っているそうじゃないか」
「宝って何だ?」
小さな焚き火を囲んで二、三人の男が話している。
「お前、知らないのか。ずっと昔から噂があっただろう? だが何故かその噂はいつのまにか風化していくんだ。もちろん、風化していっている事に誰も気付かない。だって事そのものを忘れてしまうんだからな。俺もここに入れられるまではその気付かない輩の一人だった。そしてその噂はまた流れてくるんだ。そして風化していく。まるで誰かが、
主導権を握る男は遠くを見つめ、キラリと目を光らせた。
「だからその宝ってヤツは何なんだよ」
しびれを切らした様に一人が急かす。
「さあな。近々分かるだろうよ。ついさっきここの扉が開けられただろう? その時にぬかりなく『魔』は出ていったさ。見ものだよな」
主導権を握る男はニヤリと笑った。穏やかではない話だ。
ここは一体何なんだ。すると扉の外からワーワーと騒がしい声が聞こえてきた。
「用意はいいか!」
殺気立った声が響いてきた。
俺はまた目を閉じ、声のする方へと意識を向けた。
目を開けると、前方には屈強そうな男たちが円陣を組み、その周りではその他の民が目を吊り上げ奇声を発していた。
さらに民衆を取り囲むように黒い煤の影がゆらゆらとうごめいている。
武器を握る男たちの姿は無頼漢そのもので……。
無頼漢!?
あそこにいる殺気立った男たちは、かの村に攻め入ってきた、あの部族の男たちだ! ということは、あのすすり泣く女はふた山離れた集落の部族、即ち、『後の民』だ。
馬の蹄の音が大きく近づいて来る。もちろん、俺の姿は見えているはずもなく、勢いよく目の前をかすめた無頼漢の一団は馬とともに走り去って行く。
最後尾にまとわりつく黒い影だけが、グニャリグニャリと動きながらこちら側を意識しているかの様に見えた。
黒い影は大きな顔を形成し、最後にグニャリと奇妙な笑みを浮かべて見せ、無頼漢ともども地平線の彼方へと小さくなって行った。
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