青林檎

ヒッポグリフ

夜中のチャイム

カチ…カチ…カチ…


京子が目を覚ましたのは夜中の2時だった。

嗚呼…そうだ。

昨日は1人で深酒をしてしまって、21時過ぎに寝てしまったんだ。


運良く今日は仕事が休みだ。

もう1杯飲み直そうか。

それともこのまま寝てしまおうか。


ピンポー…ン


この時間にチャイム?

信じられない、イタズラかな?


怪訝な顔でモタモタインターホンのカメラを見に行く。


「………。」


六郎太だ。

一番楽しい青春時代を捧げた男がそこにいた。

ドアを開けようか

どうせまたお金が無いんだろう

それか今一緒に住んでる女と喧嘩したとか?


ドアを開けない理由はいくらでもあった。

でも、開けない理由は見つからないのだ。


「どうしたの?こんな時間に」


結局京子は六郎太を部屋に招く。


「んー。別に。」


冷蔵庫から適当に六郎太がお酒を取り出して飲む。

ここから先はいつもの通り。


六郎太はいつも京子のところへ来ては去っていく。

京子は六郎太がふらっとうちへ来るのを待っている。

自分が都合の良い女だと分かっていても、知らないフリを通す方が六郎太をつなぎ止められる唯一の手段なのだ。


目が覚めたのは11時過ぎだった。

京子はハッとした。

いつも1人で目覚めるハズのベッドに六郎太がいた。

気持ちよさそうに寝息を立てている。


起こさないように着替え、コンビニに行く。

このメーカーのコーヒーじゃないと六郎太は飲まない。

おにぎりの具はツナ。

初めて六郎太の為に歯ブラシを買う。


帰りに商店街の八百屋でリンゴでも買って帰ろう。


そう思い角を曲がってリンゴを買う。

八百屋にある小さなテレビで不穏なニュースが流れている。


自分と同い年の女が、交際関係のもつれで刺殺されたってよ。防犯カメラの映像にはバッチリ犯人が映っていた。


嗚呼馬鹿な男と女。


そんなことを考えていたら携帯が鳴った。


「今どこ?」


六郎太だ。


「今コンビニであんたの好きなコーヒーとおにぎり買ったとこ。今帰り道だよ。」


「そっか、待ってるわ。」


「うん、すぐ帰るね。」


京子は携帯を切ると、家まで急ぐ。


涙が止まらない。

六郎太を好きで好きでしょうがないのだ。


そして家の前の角を曲がって深呼吸。

ふぅーっと息を吐いて呼吸を整える。


「六郎太、さよならだね」


そう言って京子は、一番近くの交番まで走った。

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青林檎 ヒッポグリフ @pipiko0927

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