第7話 人類創造以来まともな街がない

 あれから時間はかなり経っていた、ざっと数えて五百年ほどである。私の精神は既に化石化し始めているのではないかと疑問に思い透に聞いた所「創造神で在らせられる司様に限ってそのようなことはあり得ません」ともはや隠す気が無くなった神扱いと、有難いお言葉を貰い今日も今日とてのんびりと人々の営みを眺めつつ、もう神で良いんじゃないだろうかと考え始める私がいるのだ。


 まぁ老けない衰えない、何ならこの世界を創ったのも生物を創ったのも私なのだから、もうこの世界の住民からすれば創造神だ。この五百年間ずっと神様扱いされればもうそれでいいやと思ってしまうのも仕方ないことだと思いたい、もういっそこのまま神様ムーブでもしてやろうと投げやりになっているくらいだ。


 さて話は変わるが天球の総人口はおおよそ三万五千人を僅かに届かない程度とかなり遅いが順調に数を伸ばしてはいる。これもひとえにスキルシステムのおかげと言えるかもしれないと自画自賛でもしないとやってられないというのが最近の感想だ。


 スキルシステムといえば最近アップデートしたんだ、内容は色々あるが目玉は初回到達者特典といって初回限定でスキルを獲得した者に特典を与えるというものだ。


 初回到達者特典を説明する前にステータス画面も更新したのでそちらから先に説明すべきだろう。


【個体名】

【種族】

【年齢】


 ・スキル


 ・ユニークスキル


 これがアップデート前のインターフェースで。


【個体名】

【種族】

【性別】

【年齢】


 ・スキル


 ・上位スキル


 ・ユニークスキル


 ・シンボル


 ・ディアティシンボル


 これが今回アップデートしたインタフェースだ、今回のアップデートで増えた上位スキル、シンボル、ディアティシンボルの解説と初回到達者特典の説明をしよう。


 上位スキルはスキルの中に入れていた物を分かりやすく区分したものなので特に解説はしなくてもいいだろう、シンボルは言わば勲章のようなものだ、これが初回到達者特典の証にもなる。


 初回到達者特典は上位スキル、例えばスキルである戦闘系補正スキルと同一適性スキルをⅩまで上げると獲得できる上位スキル無双系などを最初に獲得すれば特典があるという初回到達者をリスペクトする為の措置だ。


 どの初回到達者にもシンボル:祝福【アマノツカサ】をプレゼントする予定だ、未だ到達者は居ないので何とも言えないが、効果は《生涯の内に一度だけツカサに可能な願いを叶える》というものだ。


 そして武装系スキルなら武器のようにそれぞれのスキルに適した道具もプレゼント予定である。


 ディアティシンボルは直訳で神格印なので分かりやすいといえば分かりやすいだろう、現状到達者がいないとはいえ武神とかそういうのは生まれて欲しいのだ、折角のファンタジー世界だしね。


 ちなみに透は例外だ、私と同じ構成だからか知らないがとんでもない速度で習得し神格こそ与えていないが私の想定している神格クラスなのは確かである、今度透に神格をあげよう。




 さて現実逃避はここまでにして、正直舐めていたとしか言い様がない、基礎知能は現実世界の人間並みにあるくせに天球の人間は未だに石器と動物や魔獣の牙と角で武装して、村同士で小競り合いをする程度で鉄はまだしも銅ですら扱っていない、そもそも見つかっていないのだから当然といえば当然なのだが、やはり釈然としないものがある。


 そもそも剣と魔法の世界の予定が剣が発展していない事に軽く絶望している。


 まぁ私の基本スタンスは無駄に現実世界の知識を与えずに独自の発展を遂げて欲しいという、今思えば自業自得感が満載なスタンスなので文句は言えない。この調子で発展していけば一万年後にはそれなりに見れる文化を築いていると信じよう。


 つまり何が言いたいかというと私はとても退屈しているのだった――



「・・・大陸は埋まらない・・・人類の発展も遅い・・・私は何を楽しみに生きれば良いんだッ!」


 そう叫びながら自室のベットへとぼふっと倒れ込んで不貞腐れている私、それを隣で見ていた透はくすりと笑ってからゆっくりと近づいてくる。ベットの前まで来るとぎしりという音と共に透はベットへと腰掛けていた。


「もし宜しければ一つアイデアがあるのですが、いかがですか?」


 そう言って私の顔を覗き込む透、私と同じ顔の筈なのにも関わらず何処からか持ってきたであろう色気の様な艶っぽい雰囲気と甘い口調で、私は若干紅潮しかけたが気合で抑えるという力技で乗り越える。そして「聞かせてくれるかな」と言い吸い込まれる様な銀色の瞳を見つめ返した。


 情緒も何もあったものでは無いが最近の透は何故か距離感が無駄に近い、いや別に嫌という訳ではないのだが、そしていつ頃からか透は可愛らしさがなりを潜めて、色気のような、大人の余裕的なものを拾ってきたようだ。


 人間たちと積極的に関わり出した頃からだろうか?男ないし女でも出来たのだろうかと思ってみたが性器の類が一切無いのでそれもどうかと思う訳だ。


 とまぁ、そんな透が膝をぽんぽんと叩きながらこちらを見つめている・・・・・・それは膝枕をするという事だろうか?構わないがやはり最近スキンシップが多くないかな君?


 もうどうにでもなれの精神で透の膝に頭を乗せる・・・・・・ふむ意外と悪くない、いやむしろ心地いくらいかもしれない。


 透は膝に乗せた私の髪を壊れ物を扱うようにゆっくりと梳き、語り始める。


「ボクは司様の代行者として人間達を導いてきたのですが、魔術だけでは彼らに恩恵をあまり与えられないのです。」


 透はそう言うと髪を梳く手を止めて、私の頬へと手を当てる。


「だからボクに恩恵を、祝福を与える能力を頂けませんか?そうすればもう少し司様が楽しい世界に出来るかもしれません。」


 透からの提案は今の人間があまり発展しないなら、祝福を与えて発展を加速させようというものだった。


「なるほどね、まぁ私は別に君に神格を与えても良いとさえ思っているが、君が与える祝福はどういうものを想定しているだい?」


 そう私は元々透に神格を与えても良いとは思っている、こんな事がなくても気の向いたタイミングで与えようとしていたものだ、神格を与えるのはこの際どうでもいい。


 問題は祝福の内容だ、発展に役立つ祝福とは一体何だろう?スキルシステムの仕様上一つの祝福に効果は一つまでだ、透はどんな内容にするのかを私は期待を込めて聞いた。


「《鑑定の魔眼を与える》にしようと思っています。知能的には問題がないのに一向に発展しないのはどういう物がどういう風に使えるかを知らないからだとボクは思うんです、だからそれが分かるように祝福したいです。いかがでしょか?」


 いい案だとは思う、私の労力を無視すればだが。


 鑑定の魔眼というのは要は物の説明を視覚的もしくは脳内へ送るものであり、それを可能にするシステムが必要だ。


 つまり創る必要がある、まぁいつも頑張っている透へのプレゼントの意味を込めて創っても良いがどこまで情報開示をするべきか。


「いい案だとは思うよ、でもどこまで情報開示をする気なのかな?」


「簡単な説明で大丈夫だと思います、鉄鉱石は溶かせば鉄になる等の知識に補助をかけるくらいでちょうどいいと思っています。」


 知識に補助か、確かに知性と基礎知識は与えたが精錬知識や酪農知識は与えていない。


 無くてもそれなりに発展はしていたが、やはり遅い。


 当然だ、知能があるのと知識があるのは違う。


 例えば全人類が石器時代に「この石は鉄鉱石だ、これで石器時代から卒業だ」とでも言ったとしよう、もはや現実世界の歴史全否定じゃないか。


 だから透の提案はありがたい、独自の発展を阻害せずに文明を加速させてくれる。


 ファンタジー世界を目指している私としても鑑定に制限を入れることで科学的な物を隠し要素にできる。


 あくまでも主役は剣と魔法だ、それこそ科学は堅実に独自の文明を発展させればいい。


「いいよ、じゃあ早速創ろうか、ついでに良い機会だから君に神格をあげよう。神格はマナと真理だ」


 そう言うと透は一瞬固まり次第に目が見開かれていく。


「さっき神格をあげてもいいと言ったばかりじゃないか」


 私は笑いながら透に神格を与える、そうして透は名実共に神になったのだった、私と違ってね。


「今日から君は、マナと真理の天神トールだ」


 この時、私が冗談半分で与えた称号が未来永劫語り継がれるなんて誰が予想しただろう。

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幻想創世は胡蝶の夢なのか 西蔵砂狐 @toriatori

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