第6話 月(ルナ)の病
「月ちゃん、来たわよ~。お願いされてた便箋持って来たわよ。
女の子らしいの選んだわよ。ほら、ピンクで可愛いでしょ?
久瀬君って子にお手紙書くんでしょ? あらっ!」
「ま、まま!」
個性的な髪型のその人はどうやら月の母親らしい。
「あらあら、えーと……どちら様かしら?」
明るい様子でこちらを見つめた
慌てて椅子から立ち上がり「久瀬咲夜と言います」そう言って、自己紹介をした。
すると月母は「あら~。月ちゃんたらメンクイさんね。この子ね。久瀬君の話ばっかりするのよ~」なんて言って、笑っては色々な事を話して聞かせてくれた。
月母が全てをぶっちゃけてしまったせいか月は、終始両手で顔を隠し耳まで赤くしていた。その姿が、本当に可愛くてたまらなかった。
そんな月に声をかけようとする俺の腕を掴んだ月母は「月はお手紙書くんでしょ?」そう言うと、俺を連れ病室から談話室へ移動した。
談話室に到着した月母は、先ほどの雰囲気が嘘だったかのように落ち着き俺に向かって「ありがとう」そう言って頭を下げた。
突然の事にどうしていいか分からない俺は「そんな事しなくていい」そう必死に訴え月母を何とか椅子に座らせる。
それから小一時間ほど月母と、月の抱える病気についてや学校での様子などを話した。
月の抱える病気は、
それは俺が考えていたよりも遥かに重く……死の
月母の話では、現状日本での手術は難しく、アメリカで手術を受ける方向で話が進んでおり月の体力などを考え、二週間後には渡米するそうだ。
「はじめはね、あの子渋ってたのよ。
手術自体を……。
なのにね、突然行くって言いだしたの。きっと久瀬君のおかげね」
病室の扉の前でそう言った月母は、月と良く似た顔で笑った後「あの子をよろしくね」とウィンクしながら言った。
「お待たせ~」さっきまでのテンションが嘘のように明るく振る舞う月母は、そう言って彼女の病室へ入る。
そんな母親にジト目を向けた月が、一息吐きだすと俺に封筒を差し出した。
「今開けても良いの?」
「家に帰ってから読んでよ……バカ」
「わかった」
唇を尖らせ分かってるくせにと言う彼女に、すっとボケたふりをすればお互いにプッと吹きだし二人で笑った。
「明日もまた来るからな!」
そう月に伝えて病室を出てすぐ、彼女との約束を破り封筒を開けた。
そこには、少し丸っぽい文字で『 さっきは、ごめんね。 』と言う書き出しで、月母から聞いたアメリカに行く話が書かれていた。
何度も消した後のある彼女の名前の下の部分を、沈みかけた太陽に翳せば薄らと彼女の思いが浮かび上がった。
” 久瀬君が、好き。 ”
その言葉をどんな思いで彼女は伝えようとしたんだろう? どんな思いで消したんだろう?
彼女の気持ちを想像する事しかできない俺が出来る事は、ただただその場にしゃがみ声を殺して泣く事だけだった――。
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