第5話 拒絶と告白
○○大学 第一病院。そこは、学校から電車で約30分。駅からは歩いて15分。少し高台にあるその病院についた俺は、駅からの全力疾走に息をきらしながら案内受付目指し進んだ。
漸く辿り着いた受付で対応してくれた男性に月の名前を伝えれば、南塔の2105だと教えてくれる。
ついでに聞いた順路である黄色の矢印を辿り、エレベーターに乗り込み7階へ向かった。
エレベーターの扉が開き7階に到着する。東西が繋がった踊り場で方向を確認しようとした俺の視界に ”循環器 ”と言う文字が入った。
その文字に循環器ってなんだっけ? そう思いながらそちらへと進んだ。
ナースステーションの正面の部屋の番号を確認して、緊張しながら扉をノックした。
「はい」小さめの声が聞こえ、スライド式の扉を開けた俺は固まった。
月が運ばれたのは、今日から数えて三週間前だったはずだ。それなのに月の身体は、運ばれた時の倍はあろうかと言う大きさになっていた。
その姿に驚き、言葉を失ってしまった。
「くぜ、くん……どうして……?」
俺が来た事に驚いた様子でそう言った月は、ハッと何かに気付いたように目を大きく開きそれと同時に唇を噛み俯むく。
俯いた時に「――かった」そう何かを呟いた。
けれど俺は入り口にいたのでその言葉が聞きとれず、何か言った? と聞き返すこともできないまま無言で月の傍の椅子に座った。
聞きたい事も言いたい事も、沢山あるはずなのに言葉が出てこない……。そんな自分を歯痒く思いながらも、月に逢えた喜びで心が満たされていった。
そんな俺の気持ちが分かるはずもない彼女は、こちらを見る事無く両手で布団を握り絞める。
「な、なにしに来たの?」
底冷えするかのような彼女の声に、心臓がドクンと脈打った。
「あ、げ、げんきにしてるか……し、心配で……」
「そう。元気だからもう帰って」
何怒ってんだよ! 折角会いに来たのに、どうしてそんな冷たい事言うんだよ! そう言おうとしたところで、彼女の唇が僅かに震えている事に気付いた。
彼女が、俺を追い返そうとする理由が何かしらあるとするのなら、きっとさっきみた循環器と言う文字と関係があるのではないか? そう思った。
「るな、月の病気は何?」
意を決して月の名を呼べば予想より遥かに落ち着いた自分の声に、自分自身で驚いた。そんな俺の声に顔を上げた月は、キッと俺を睨みつけ「関係ないでしょ!」そう癇癪を起したかのように怒鳴り付けた。
「関係ないことなんてない。
俺は……俺は! 月が好きだ。
だから――「私は! 久瀬君の事なんか好きじゃない!」」
彼女の関係ないと言う言葉に、俺は感情的になってしまい本音をぶちまける。けれどその言葉に被せるように、彼女から好きじゃないと言われてしまう。
どうして……その一言を、聞く事が出来ず口をつぐんだ。
互いに何も話さず無言になったその時、俺たちの空気をぶち壊すかのように弾んだ女性の声が、病室内に響き渡った――。
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