第2話 出会い
あの子事、月と初めて話したのは高一の秋だった。
よく遊ぶグループで、ボーリングに行った。その時、誰かが罰ゲームをかけて勝負しようと言いだし、乗った俺はそれに負けた。
罰ゲームの内容は ”学校でモテ無さそうな女子に告白する” だったんだ。
そのモテ無さそうな女子と言う条件で、俺が選んだのが月で……。
教室まで行き彼女を呼び出し、非常階段まで来てくれるように頼んだ。
初めて近くで見た月に、内心『デカッ、俺こんなのに告白するのかよ……いくら罰ゲームとはいえ、嫌だ』って思った。
そんな俺の思考を読んだように、月はヘラっと笑った――刹那、眉を吊り上げキレた表情をする。
そして、彼女のこんな大きな声を初めて聞いたと思うぐらいの音量で「ふざけんな」そう言ったんだ。
俺はあまりの事に驚き、彼女を凝視した。そんな俺に月はゆっくりと右手を持ち上げ、天井を指さす。
「笑い声ぐらい抑えさせなよ。
罰ゲームで告白? そんなんして何が楽しいの? 本当に最低だね」
そう言って彼女は俺を睨みつけると「今度はちゃんと好きな人に告白しなよ」そう言って、少しだけ寂しそうに笑った。
彼女がその場から居なくなるのを待って、階段の上に潜んでいた仲間が 「
その後はいつも通り馬鹿やって、飯食って……ベットに寝転がった。
あの頃の俺は、見た目が良かったおかげで何かをしなくても女にはモテたし、それなりに裕福な家に生まれたおかげで欲しいものは何でも手に入った。
だからってわけではないけれど、その時その時だけが楽しければ誰を傷つけようと気にしなかったし、自分や仲間以外をどこか馬鹿にしていたし、それでいいと思っていた。
けれど、月に見破られた日の夜は、彼女の寂しげな顔が脳裏から消えなくて……悶々として寝れなかった。
次の日、教室を移動するついでに、頭の中にこびり付いたように浮かぶ月の様子を伺うように視線で彼女がいるはずの教室を覗き込んだ。
だけどそこに、彼女の姿はなくて『なんだ……休みか……』なんて、軽く考えその日を過ごした。
それから毎日、なんとなく彼女の教室を通り過ぎながら彼女の姿を探す日が続き……漸く彼女の姿を見れたのは、一カ月が経った頃だった。
授業の合間の昼休み、階段から月はお弁当を片手に階段を降りてきた。
『なんだ、元気じゃん』って思いながら、購買でパンとコーヒー牛乳を買った。
彼女はそんな俺の横を通り過ぎる。無意識に身体が彼女を追ってしまった。
辿り着いたそこは、程良い日差しが差し込む芝生の上にベンチのある裏庭だった。木漏れ陽を浴びてベンチに座り、お弁当を取り出す月が不意にこちらを向いた。
それと同時に視線が絡みあう――。
儚げに今にも消えてしまうのではないかと思える月の姿に、喪失感? 空虚感? のような何とも言えない気持ちが込みあげて……息がつまり言葉を失った。
そんな俺と視線を合わせたまま月は、にへらっと笑う。そして、徐に瞼を降ろし視線を俺から外すし何も無かったかのようにお弁当を広げ始めた。
一歩、一歩ふらふらと彼女に吸い寄せられるように歩み寄り、すぐそばの芝生に座れば彼女は箸を止め俺を見ながら茶かすような声で「また、罰ゲーム?」と聞いて来る。
「いや、違う……なんつーか、話してみたいって思ったから……」
そう言葉を濁しながら言えば彼女は「そう」と短く言った。
本当に、彼女と話してみたいと思ったんだ。
けれど何かを思い出したらしい彼女は困ったような顔で、自分と居れば変な噂が立つと心配するように俺に言う。
確かに、俺が彼女と一緒にお弁当を食べているなんて仲間に知られれば、色々な邪推をされるかもしれない。
だけど何故だろう? そんなことは些末な事でどうでもいいと思えた。
移動する気が無い俺の様子に「変な人」と呟いた彼女は、そのまま食事を始める。つられたように俺も購買で買ったパンを食べた。
先に食事を終えたのは俺の方で、時間を持て余した俺は月に色々な質問をした。
例えば、趣味の話とか好きな本の話しとか……。
ゆっくりと食事を口に運ぶ彼女のお弁当は、身体に似合わずとても小さなもので「そんな量で足りるの?」って俺が聞けば「失礼な! 女子に聞く質問じゃない」と笑いながら怒られたりもした。
月と二人で食事をする時間は俺が想像していたよりも楽しくて、あっという間に過ぎてしまい教室に戻る時間になる。
「また、明日も一緒に食べていい?」
「久瀬君が良ければいいけど……本当に大丈夫なの?」
タブレット入れから白い錠剤を取り出し飲んでいた彼女に、また一緒に食べたいと告げれば本気で心配された。
それを強気で、大丈夫だと言い切り約束を交わした。
今にして思えば、俺はあの視線が絡みあった瞬間月に恋をしていたんだと思う。
月とご飯を一緒に食べるようになって、すぐに俺と月が付き合っていると言う噂が流れる。
本当に付き合っているのか? と聞かれた俺は、月との時間を奪われたくなくて笑って誤魔化した。
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