第20話 葵と手伝い

「じゃあ、今日はお願いね」

 葵に肩を叩かれ、俺は「わかった」と笑って返す。

 俺はこの間頼まれていた、葵の家の手伝いに来ていた。

 今日、葵に俺が春陽と入れ替わっていることを話すつもりだ。

「春陽はいつも通り接客の方お願いね」

「ごめん。俺、厨房の手伝いでもいいかな」

「え? まあ別にいいけど、どうしたの?」

 葵が不思議そうな顔をする。

「ちょっとな」

 今話しても困惑させてしまうだけだろうと、理由は説明しない。

 俺は厨房の方に向かい、葵の母親に軽く挨拶する。

「あら、今日は春陽君、こっちなのね」

「はい、ちょっとありまして……」

 母親にまで説明する必要はないだろう。

「そうなの」

 特に気にした様子もなく作業に集中している。

 俺は詳しく聞かれなかったことにほっと胸を撫でおろしながら、作業を手伝った。

「お疲れ様。ありがとうね」

 バイトが終わり、給料が手渡される。

「またいつでも呼んでください」

 俺は笑ってそういうと、玄関の前で立ち止まった。

「葵、ちょっといいか?」

 振り返り、葵の顔を見る。

「ん? うん、何?」

「ちょっと話があるんだけど」

「え、うん」

 葵は少し緊張した面持ちで俺の顔を見た。

「俺、春陽と入れ替わったみたいなんだ」

「……は?」

「見た目は春陽だけど、中身は一瀬遥なんだ」

「……はぁ」

 葵は深いため息を吐くと、横に首を振った。

「そういう悪ふざけはもういいわよ」

「悪ふざけじゃないって」

「はいはい。そういう話ならもう帰るわ」

 そういって俺に背を向ける。

「ちょっと真剣な顔してたから、身構えて損した」

 そして、葵は家に入ってしまった。

 止めることもできず、俺は家のドアを見つめて立ち尽くす。

「はぁ……」

 ため息を吐いて、家に向かった。

「結局、信じてもらえなかったな……」

 

 

 

 

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本当の俺を見つけて @山氏 @yamauji37

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