第19話 帰路

「遥先輩はなんで入れ替わったんだと思います?」

 春陽の家に向かう途中、香織が言った。

「そんなのわかんねえよ」

「まあ、そっすよね」

 香織は知ってたと言わんばかりにため息を吐いた。

「遥先輩って春陽先輩に憧れとかあったんすか?」

「なんだそれ」

「だって、入れ替わる話ってそういうのあるじゃないっすか。あの人になってみたい、とか」

 確かに参考資料として読んでいた作品にはそういうのもあった。しかし、俺が春陽に憧れていたかと言われるとそうでもない、と思う。

「あ、もしかして、女の子にモテたかったとかっすか?」

 香織はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んだ。

「遥先輩も男の子っすもんねー」

「うるせ」

 モテたいと思ったことはある。だからと言って春陽になりたかったわけではない。

「ま、どうでもいいっすけどね」

 興味なさそうに香織は続ける。

「私は遥先輩が好きっすからね」

「そういう恥ずかしいこと、あんまり言うなよな」

「えー? こんなに可愛い後輩に好意を向けられて嬉しくないんすか?」

「嬉しくねえよ」

 顔を背けてそう言った。

「あー、照れてる。可愛いっすね」

 香織は俺の顔を覗き込んで意地悪く笑った。

「……からかうなよ」

「あ、バレました?」

「当たり前だろ」

「遥先輩は私のことよく見てますね」

「だから……」

「はーい、すみませーん」

 悪びれもなく言う香織に、俺はため息を吐いた。

「あ、じゃあ私向こうなんで。また明日っすね」

 いつの間にか別れ道に来ていたようだ。香織は手をひらひら振って走って行ってしまう。

 俺は香織の背中を見送り、春陽の家に向かった。

 家に着き、携帯を確認すると何件もメッセージが来ていた。俺は一つ一つ確認して、返信していく。

 その中に、葵からのメッセージがあった。

 また家の手伝いをしてほしいとのことだ。俺はすぐに返信して、携帯を置いた。

 葵にも入れ替わっていることを話さないとな、と考えながら布団に寝転がる。

 いつの間にか、俺は意識を手放していた。

 

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