第18話 打ち明ける

 俺はいつもより遅めに家を出た。

 遅刻ギリギリ。教室に入ったころにはクラスメートは全員席についており、春陽はいつものように席で寝ている。

「今日は遅かったな、春陽」

「ちょっとな」

 クラスメートが声をかけてくる。俺は軽く返事を返して席に着く。それと同時くらいのタイミングで担任が顔を出した。

 ホームルームが終わり、俺と春陽の周りに人が集まってくる。

「なあ、ちょっと話があるんだけど」

 そして、俺は切り出した。

「……俺たち、入れ替わってるんだ」

 俺は春陽を指さしながら言った。

「……はぁ?」

 みんな頭の上にハテナを浮かべている。普通の反応だろう。俺は入れ替わった経緯とかを説明した。

 俺が話し終えると、周りの一人が口を開く。

「なんかのゲームの話か?」

「え、いや……」

 俺が否定する前に、周りが次々に口を開いて騒ぎ立てる。

「なんだよ、そういうことか。急に真面目に話し出すからびっくりしたぜ」

「名前が似てるからってそんなことしてんのかよ」

 話を聞いてくれる感じではなかった。俺は春陽の方を見るが、どうでもよさそうに俺たちの様子を眺めているだけだ。

「遥のイメチェンもそういうことだったってことか?」

 矛先が春陽の方に向く。春陽は少し考えるような素振りを見せると、笑顔で「バレたか」と言った。

「どういう反応するかって春陽が言いだしてな。仕方なく」

「なんかおかしいと思ってたらそういうことだったのな」

「……」

 俺はため息を吐いて、教室から出た。階段まで来たところで立ち止まる。

 結局、信じてもらえなかった。まあ、当然と言えば当然だろう。急に入れ替わったと言われてもゲームの話か何かだと思われるのがオチだ。

「まあ、こうなるのは予想できてたけどな」

 教室に戻ろうかという時に、春陽が来る。

「お前からもちゃんと説明してれば違ったかもしれないだろ」

「んなことねえよ」

 それに、と春陽は付け足す。

「こうなった方が、下手に隠さなくてよくなるだろ?」

 確かに、これからクラスメートの前で春陽になり切る必要はない。

「女の子たちにはお前から説明しといてくれよ?」

「なんで俺が……」

「俺、春陽じゃねえし」

 ニヤけながら春陽が言った。俺は春陽の肩を小突くと、教室に向かう。




 放課後、俺が帰ろうとすると、教室に香織が入ってきた。

「あ、先輩いた。一緒に帰りましょ?」

 香織は返事も聞かずに俺の手を掴んで教室から出ていく。

「で、どうだったんすか? 信じてもらえました?」

「春陽から聞いてんじゃねえのか」

「聞いてないっすよ。春陽先輩とは話したくもないっすからね」

「どんだけ嫌いなんだよ……」

「まあ、それはどうでもいいとして。どうだったんすか?」

「信じてもらえなかったよ」

「そうなんすねー。じゃあ、賭けは私の勝ちってことで。元に戻ったらデートしてくださいね、遥先輩」

「わかったよ……」

「やったー!」

 香織は嬉しそうに飛び跳ねた。

「あれ? 春陽と香織ちゃん?」

 昇降口の近くで前から葵が歩いてきた。

「珍しいね、葵ちゃんが春陽と居るなんて」

「まあ、たまにはいいかなって思いまして」

「葵は今から家の手伝いか?」

「うん。やっぱりまだ人手が足りないからね」

「また手伝い行くよ」

「ん、ありがと」

 そう言って葵はさっさと帰ってしまう。

「葵先輩にはまだ話してないんすね」

「ああ、クラスの連中だけだな」

「ふーん」

 意味ありげに香織は頷く。

「じゃ、私たちも帰りますか」

 そして俺は香織と帰った。

 


 

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