第17話 賭け
家に入ると、部屋には春陽と香織が居た。
「遥先輩! 遅いっすよー」
「なんで香織がここに……っていうか俺は春陽だぞ」
「ああ、隠さなくていいっすよ。だいたい春陽先輩に聞いたんで」
俺は春陽の方を見た。
「わり、バレちった」
春陽は手を合わせて舌を出した。
「なんでだよ……」
「いやいや、先輩たち見てたらわかりますって。春陽先輩とかもう隠す気ないじゃないっすか」
香織は春陽の方を指す。確かに、今までの俺からは考えられない恰好をしている。
「だってきっちりしてんのだるいし」
「それが隠す気ないって言ってんすよ。最初は入れ替わってバレないように、とか言ってた癖に」
「まあそうだよな」
香織の意見には同意だ。もうやってしまったことだからどうしようもないが、俺に一言あってもよかったのではないだろうか。
「遥には言ったんだぜ? 俺の好きにするって」
「あれでそうなるとは思わないだろ!」
「まあなんでもいいっすけど。そういえば、先輩たちはなんで入れ替わってること隠してるんすか? 別になんか問題あるようには見えないんすけど」
「……確かに」
入れ替わったことがバレたとしても特に何かあるわけではないだろう。最初は変な目で見られることは間違いないだろうが。
「その方が面白いんで私はいいんすけどね」
「面白がるなよ……」
俺はため息交じりに言った。
「……一回、クラスのやつらに話してみるか」
「あんなに隠し通すって言ってたくせにか?」
「香織にもバレちまってるし、このまま隠し通せると思うか?」
「まあ、無理かもな。遥がそれでいいなら俺は何でもいいけど」
春陽はそんなに興味なさそうに言う。
「なんて説明するんすか?」
「なんてって……」
普通に入れ替わったと伝えるだけではいけないのだろうか。
「入れ替わりましたーとかそのまま言って信じてもらえると思ってるんすか? しかも、春陽先輩の姿でそれを言ってもなんかのゲームかと思われるだけっすよ」
「それは言い過ぎじゃねえ?」
春陽は苦笑いして香織の方を見る。
「まあ、入れ替わったのだって何かきっかけがあったわけじゃないみたいですし、そう説明するしかないかもしれないっすけど。信じてもらえるか賭けます?」
香織がニヤリと笑って俺の方を見た。俺はため息を吐いて香織の方を向いた。
「真面目に話してんだぞ……」
「どうせ真面目に話してたって解決方法が思いつくとも思えませんし、いいじゃないっすか」
「……賭けるって何をだよ」
「じゃあ遥先輩。信じてもらえなかったら元に戻った時にデートしてほしいっす」
「なんでそんな……」
「ええ? いいじゃないっすか。遥先輩、春陽先輩になって女の子とデートしてたみたいだし? 私とデートするくらいどってことないっすよねぇ?」
「なんでそんなこと知ってんだよ……」
「春陽先輩に聞いたんすよ」
「おい……」
春陽を睨むと、口笛を吹いて目を逸らした。
「わかったよ。元に戻ったらな」
「やったー! じゃあ、信じてもらえたらどうします?」
「別になんもいらねえよ」
「じゃあ、信じてもらえたら俺とデートしてくれよ、香織ちゃん」
春陽が香織に言うと、死んだ目で香織は春陽の方を見る。
「死んでも嫌っす」
「賭けはどうでもいいけど、明日の昼休みくらいでいいか?」
「あ、じゃあ私は結果報告聞きたいんで、放課後遥先輩の家に行きますね」
「俺はいつでもいいぞ」
春陽はどうでもよさそうに言うと、携帯を眺め始める。
「じゃあそれで」
なんだか俺もどうでもよくなってきた。
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