第16話 助っ人

 着替え終わった香織が試着室から出てきた。

「お待たせしました」

「いや、別に……」

 先ほど香織が言った言葉が頭に残って離れない。

「なあ、さっきのって」

「ああ、言った通りっすよ。周りには言わないでおいてあげるんで、心配ご無用っす」

「そうじゃなくて」

 なんで入れ替わっているのを知っているのか、と言うところだ。

「そりゃわかりますよ。ずーっと遥先輩のこと見てきたんすから」

「なんだそれ、ストーカーかよ」

「そっすよ」

 堂々と香織は言った。

「遥先輩に会う前から、ずっと遥先輩のこと見てたっすからね。最初はなんかのゲームの話かと思ったっすけど、今日会って確信しました」

「……」

「はぁ……ホントは遥先輩とデートできるかなーとか思ってたのに、春陽先輩とデートしてたとか最悪っす」

「……ホントに周りには言わないでくれるんだよな」

「そう言ってるじゃないっすか。それに、周りに言っても誰も信用しないでしょ?」

「こんなに早くバレるなんてな。俺は遥にはなれなかったか」

 俺は自嘲気味にそう言って笑った。

「当たり前じゃないっすか」

「ストーカーするくらいだもんな」

「あ、それ誰かに言ったらすぐ入れ替わってるってバラすんで」

 突然、香織が俺の目を見た。俺は血の気が引いた気がして「言わねえって」と目を逸らす。

「ならいいっすけどね」

「こええよ……」

「酷い言いようっすね。せっかく助けてあげようとしてるのに」

「は? 今までの会話でそんな要素あったか?」

「まあなんでもいいっすけど。私としても元の遥先輩に戻ってほしいっすからね。私もちょっとはお手伝いしてあげますよ」

 香織はさっき試着した服は買わず、店から出た。

「どこ行くんだよ」

「遥先輩の家に決まってるじゃないっすか。春陽先輩とこれ以上話してても無駄っすからね」

「遥の家に行っても遥は居ねえぞ」

「あ、そっか。家も入れ替わってるんすね。じゃあ遥先輩を家に呼んでください」

「マジかよ……」

 俺はため息を吐いて遥に連絡を入れた。遥はすぐに返事を寄越し、遥の家に向かうようだ。

「携帯も入れ替えてるんすか? なら、私の番号入れといてくださいよ」

 香織が携帯の画面を俺に見えるように突き出した。携帯番号が表示されている。

 俺は手早く番号を登録すると、香織は満足そうに頷いた。

「これで元に戻ったらいつでも連絡できるっすね」

「元に戻ったらかよ」

「誰が春陽先輩に好んで連絡するんすか……」

 心底嫌そうな顔をして香織は呟いた。そういえば、香織は俺に対しての当たりがとても強かったことを思い出す。

「俺、元の体だと結構モテるんだけどな」

「そっすかー。私は先輩に興味ないんで」

「面と向かって言われるとちょっとショックだな」

「あ、もう遥先輩の家っすね」

 気が付けば、遥の家についていた。香織は当然のようにポケットから鍵を取り出すと、鍵を開けて中に入った。

「なんでお前が鍵持ってんだよ」

「え、作ったからっすけど……」

「もういいや……」

「ああ、春陽先輩と入れ替わってるって気づいてからは勝手に入ってないんで、安心していいっすよ?」

「あっそ……」

 これ以上追及しても疲れそうだ。早く元に戻りたくなってきた……。

 俺たちは部屋に入ると、遥の到着を待った。

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