第15話 発覚

 俺は遥から香織についてのことを聞いた。

 出会った時のことから、今に至るまで。あんまり深く関わり合いがあるわけではないらしい。

 連絡先すら交換していないくらいだから、そこまでの関係なわけがないとは思っていたが。

「香織ちゃん、お前のこと好きなの?」

「はぁ? んなわけ……」

 遥は笑って否定していたが、おそらく香織は遥のことが好きなんだろう。前に話して、俺に対しての態度と遥に対しての態度が違い過ぎて面白かった。

 遥には葵しか見えてなかったみたいだし、香織の好意には気付かなかったようだ。

 香織は遥の異変に気付きかけている。元に戻るまではあんまり香織と関わらない方がいいだろう。

「まあ、香織とはあんまり話してないしなぁ……」

 遥はそんなに深刻そうではなかった。かくいう俺もそこまで深刻に考えてはいない。あの時昼飯を一緒に食べたのはたまたまで、毎日一緒に食べているわけではないのだ。学年もクラスも違うから学校で会うこともあまりないはずだ。

「流石に気にしすぎか……」

 俺は自分の家から出て、遥の家に向かった。

「あっれー? 遥先輩? どうしたんすか、こんなとこで」

 前から、香織が歩いてきた。まさかこのタイミングで会うとは……。

「今から帰るとこだよ。お前こそどうした?」

「私の家、この近くなんすよ」

 香織の家が俺の家の近くにあるなんて知らなかった。

「そうなのか。じゃあな」

 俺は香織の横を通り過ぎようとしたが、香織は俺の前に立ち、進路を塞いだ。

「せっかくこんなところで会ったんすから、遊びましょうよー」

「なんでだよ……」

「どうせ帰るだけだったんすよね? じゃあいいじゃないっすかー」

「……わかったよ」

 香織とあんまり関わらないように、という話をしたすぐあとなのに、と思いながら、香織がこのまま帰してくれそうもなかった。

「やったー! 先輩とデートだー」

 嬉しそうに飛び跳ねる香織に、俺はため息を吐いた。

「遥先輩はどこに行きたいっすか?」

「うーん……」

 服はこの前葵と買いに行ったし、今必要なものはない。

「なんもないんすか? じゃあ、今日は私に付き合ってもらいますね」

 香織は俺の手を取って、歩き出してしまった。

「おい……」

 俺は速足で香織の横に並び、手を繋いだまま歩く。

「まずは、服を買いに行きましょう」

 香織が向かったのは、俺が葵と来た時と同じショッピングモールだった。

「新しい服も欲しかったんすよねー」

 この前も服は買ったが、何着あっても困るものではない。前の時はとりあえずで買ったものだし、せっかく来たのだから少し買い足しておくか。

 俺は自分の服を見ようと香織から離れようとした。

「遥先輩、私の服、選んでほしいっす」

「別にいいけど……」

 香織に引っ張られながら、俺は香織に合いそうな服を考えた。彼女の性格から考えて、女の子らしい服、と言うよりもボーイッシュな感じの爽やか系の服装の方が似合いそうだ。実際、今日着ている服も、あまりヒラヒラと装飾がある服ではないが、とても香織に合っていると思う。

「……なんか、すごい悩んでるっすね」

「ん、ああ。悪い、どんなのがいいか考えてた」

「え……? 選んでくれるんすか?」

「お前がそう言ったんだろ?」

「あ、いやー……そうなんすけど。いつもの遥先輩なら、自分で考えろってどっか行っちゃうんで、ちょっと驚いたっす」

「……まあ、たまにはな」

 また遥であるということを忘れてしまっていた。

 実際、忘れても違和感がなくなるようにと俺が遥の髪を弄ったり、見た目を変えたりしているわけだが、香織や葵相手には春陽として接してしまうとバレる可能性が高い。そこだけは直さなければならなかった。

「まあ、選んでくれるならそれでもいいっすけどねー」

 香織は嬉しそうに店内を歩き始め、俺も並んで歩く。そして何着か選び、香織はそれを持って試着室へと入った。

 俺はその前で携帯を眺めながら待つ。

「先輩、ちょっといいっすか?」

 試着室から、香織の声が聞こえる。

「なんかあったか?」

「先輩たち、入れ替わってるんすか?」

「……は?」

「いや、なんか最近の先輩たちの行動がおかしいから、ちょっと気になってたんすよね」

「そ、そんなわけないだろ?」

「まあ、なんでそんなことしてんのかは知らないっすけど。遥先輩になるなら、多分私の方が上手くやれると思うっすよ、春陽先輩?」

 香織が試着を終え、試着室から出てきた。

「……はぁ。何言ってんだお前は」

 俺は香織の頭を叩く。

「いった。何すんすか」

「お前が変なこと言うからだろ?」

 香織の言葉に心臓はバクバクだ。どうにかして誤魔化さないと、と思考を巡らせる。

「そうっすよねー。そんなこと、起こるわけないっすもんね」

 香織は笑って言った。俺も「そうだよ」と苦笑いして返す。

「まあ、隠してるみたいなんで、みんなには言わないでおいてあげるっすよ、先輩」

 香織が顔を近づけ、耳元で囁くように言った。

「……ははっ」

 俺は笑うことしかできず、試着室に戻った香織の方を見た。

 

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