第14話 後輩
髪型を変えてから、俺の周りにはいつも誰かがいるようになった。
クラスメートの俺が春陽だった頃よく話していた奴らも、今では俺と遥を囲んで話している。
「それにしても、遥の変貌には驚いたよな」
「そうそう、最初見た時誰かわかんなかったもんな」
「そろそろ見た目も変えようと思ってな」
これくらいすれば遥が元に戻ってもファッションに気を遣うようになるだろうか。
「いや、それにしても変わりすぎだろ……」
遥がため息を吐いて俺に言った。
「こういうのはインパクトが大事だろ?」
「髪染めてないだけマシだけどさ……」
「流石に髪は染めねえって」
笑って言う俺に遥はもう一度深いため息を吐いた。
昼休み、俺は購買へ向かった。遥は朝に買ってきていたようだが、俺はそんなに朝早くに家を出ていない。それに、購買部があるのに朝買っていく理由も特にないだろう。
「あれ、遥先輩じゃないっすか」
「よっ、香織ちゃん」
「なんすか、その呼び方。春陽先輩みたいで嫌なんすけど……」
俺ってそんなに香織に嫌われてるのか、と複雑な気持ちになる。
「それに、どうしたんすかその髪とか。別人みたいっすね」
「ああ、ちょっとイメチェンしてな」
「春陽先輩にいらんこと言われたんすね? ちょっと文句言ってきます!」
「待て待て、これは自分で決めたことだからいいんだよ」
走っていこうとする香織を俺は止めた。流石に遥に文句を言いに行かれたら遥が可哀そうだ。
「ならいいっすけど……。私は前の遥先輩の方がよかったと思うんすけどね」
そういうやつもいるのか、と少し関心する。もしかしたら、葵もそうなのだろうか。
「それより、今日一人なんすか? 一緒にご飯食べましょうよ」
「ああ、いいよ」
香織がこんなに俺に話しかけてくることがちょっと面白い。春陽だった頃はかなり不愛想な印象だったが、遥に対してはこんなにぐいぐい来る子だったのか。
俺と香織はパンを買い、購買部から少し離れて空き教室に入った。
「そういえば、このまえ春陽先輩が図書室に来てたんすよ」
「ああ、知ってるよ。ちょっと調べものしてたみたいだな」
そのせいで酷い目に遭ったのだ。階段から転げ落ちたり……。
「なんか深刻そうな顔してましたけど、単位ヤバイんすか?」
「単位は授業出てるし大丈夫だよ」
「いやいや、テストの点数もあるじゃないっすか」
普通に春陽として返事してしまった。
「確かに、春陽は勉強できないからな」
自分で言ってて悲しくなる。が、ほぼ赤点すれすれの俺が勉強ができるとはお世辞にも言えなかった。
「なんか、今日の遥先輩、変じゃないっすか?」
「なんだそれ。いつも通りだろ? ……見た目以外は」
「まあいいっすけどね」
心の中でほっと胸を撫でおろし、パンを食べ始めた。
そういえば、俺は香織とほとんど話したことがない。遥が何を話しているかも聞いていないし、あんまり長く話しているとボロが出てしまう可能性がある。
俺はさっさと教室に戻ろうと、パンを頬張った。
「え、なんでそんなに急いでるんすか」
「んあ、ちょっとやること思い出したから、先戻るな」
「え? あ、はい……」
俺は香織を置いて空き教室から出た。香織は訝し気に俺の方を見ていたが、気にしている余裕はない。教室に戻り、周りに気付かれないように遥に「香織ちゃんのこと教えてくれ」とメッセージを送った。
遥がびっくりしたように俺の方を見る。しかし声は出さず「教えることなんて何もないぞ」と返事が返ってきた。
お前らが何を話したりしてたのか知りたいだけだから、彼女のことが気になるとかそういうわけではない。
俺は「香織ちゃんに入れ替わってるってバレるかもしれない」とメッセージを送ると、遥は小声で「何やってんだよ」と耳打ちした。
「そういうわけだから香織ちゃんに不信感を持たせたくないんだよ。お前らがどんな会話してたのかだけでもいいから教えてくれ」
「……わかったよ」
遥は渋々と言った感じで頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます