第13話 実践
休みの日、俺は春陽を家に呼んだ。
「なんだよ、大事な話って」
「ああ、そろそろ戻る方法についてちゃんと考えないとと思ってな……」
春陽はめんどくさそうに頭を掻いて「別に今じゃなくてよくねえ?」と呟いた。
「早く戻った方がいいに決まってるだろ!」
「別にそこまで不便な生活なわけじゃないだろ?」
確かに、不便というわけではない。慣れていないから名前を呼ばれた時に反応が遅れるくらいだろうか。
しかし、元に戻れるなら慣れていない今が一番いいだろう。
「まあ、そこまで言うなら別にいいけど。なんか案でもあるのか?」
「ああ、ちょっとな」
俺は図書室から借りてきた本を机の上に出した。
「なんの本だ?」
「入れ替わりを題材にしてる本」
「まさか、これで入れ替わった原因を実際にやってみようってわけじゃないよな……?」
「そのまさかだよ。これくらいしか思いつかなかった」
「じゃ、俺は帰るわ」
春陽は立ち上がって家から出ていこうとする。俺は春陽の手を掴み、引き留めた。
「待て待て待て。もしかしたら戻るかもしれないだろ?」
「んなわけないだろ! そんな面倒なことしてられるか!」
「元に戻りたくないのかよ!」
「別になぁ……」
「とりあえず、できることはやってみようぜ」
俺は乗り気ではなさそうな春陽を無理やり座らせると、本を開いた。
「簡単そうなのはこれか……」
中に書かれていたのは、階段から二人で落ちてしまい、その時に入れ替わってしまう。というものだ。
「げっ……。痛そうじゃねえかよ」
春陽は嫌そうに顔をゆがめた。
「じゃあこれにするか? 俺はあんまりやりたくないけど……」
他の本を開く。事故で女の子とキスをして入れ替わってしまう話が書いてある。
「バカか。お前俺とキスできるのかよ」
「やりたくねえって言ってんだろ!」
「そりゃそうか……。流石にファーストキスくらい女の子としたいよな……」
春陽は俺の肩を叩いて、首を横に振った。
「その言い方はなんかムカつくな……」
結局、実践するのは階段から落ちてみる、ということになった。
俺たちは近くの神社に行き、階段を上った。
「おい、これ本当にここから転げ落ちるのか……?」
春陽が不安そうに聞いてくる。俺は階段の上から下を見て、首を振った。
「でも、やってみるしかないだろ……」
俺は春陽の肩を掴み、お互いに抱き着くようにして階段から落ちた。
「いてぇ……」
転がり切った時には、お互いに離れており、階下で寝転がる形になっている。
春陽は立ち上がり、俺の方を見ていた。
「変わってねえな……」
俺が見上げているのは、俺、一瀬遥の姿だ。これは失敗に終わってしまった。
「ただ痛いだけだったじゃねえか……」
春陽は不満そうに言うと、体に付いた砂を払う。
「まだやるのか?」
「……」
正直、元に戻れる保証なんてない。しかし、戻るためには少し痛いくらい我慢しなくてはいけない。
「わかったよ。気が済むまで付き合ってやるよ」
春陽は俺の答えを待つ前に渋々と言った感じで言った。
「ありがとな」
「今度なんか奢れよな」
それから俺たちは入れ替わりのきっかけになりそうなことを繰り返した。
場所が悪かったのかと放課後の学校で階段から転げ落ちてみたり、頭突きしてみたり。最終手段として取っておいたキスまでした。
しかし、結果は元に戻ることはなく、俺は春陽の体のままだ。
「もう、元に戻るまでこのまま過ごした方がいいんじゃねえか?」
先に折れたのは春陽だ。そもそも乗り気ではなかったわけだし、当然と言えば当然か。
「そうだな……」
やれることはやったと思う。これで無理なら、もう元に戻るのを待つしかないだろうか。
俺は、ため息を吐いて家に帰った。
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