第12話 遥の変化

 教室に入ると、中は騒然としており、俺の席辺りにクラスメートが集まっていた。

「なんかあったのか?」

 近くにいた生徒に声をかける。

「なんか、一瀬……あ、遥の方がガラッとイメチェンしたらしくてさ」

「ああ……」

 なるほど、俺が髪を弄ったりするとこんな騒ぎになるのか……。

 囲まれているのが俺じゃなくてよかったと思いつつ、席の周りが空くまで俺は待っていた。

「一瀬君、だいぶ雰囲気変わったよね」

「ねー。あっちの方が好みかも」

 一部の女子の会話が耳に入る。モテたいと思ったことがないわけではないが、こうも見た目を変えるだけで好感度が上がるなら、春陽の言うことを聞いておけばよかったかもしれない。

 俺は人がいなくなったところを見計らって、自分の席に戻った。

「おう、春陽」

「変わりすぎだろ……」

 髪をワックスで少し弄る程度かと思っていたのだが、制服は着崩しているわ髪の毛は立ってるわで、いつもの俺からは想像もできない見た目だった。

「まあ最初はこのくらいやっとかないとな」

 気にした様子もなく、春陽は言った。春陽にとっては、これがいつも通りなんだろう。俺はため息を吐いて、椅子に座った。

 教師も一瀬遥の変化に戸惑っているようで、授業中チラチラ春陽の方を見ていたが、何か言ってくる教師はいなかった。

「俺が変わるの、そんなに変なことかよ」

 休み時間、春陽は笑いながら俺に話しかける。

「お前なぁ……」

 俺は一応真面目に授業を受けてきたし、制服だって着崩したりしたことなどない。突然俺がそんな行動に出たら、教師はもちろん、クラスメートだっておかしいと思うに決まっている。

「そんなに気にすることないだろ」

 春陽はよほど不安そうに見えたのか、俺に言って「どうせ慣れた時には元に戻ってるさ」と小声で続けた。

 だといいんだが、と俺は心の中で呟いた。元に戻る方法はまだわからない。というより、春陽の生活に慣れるための思考に頭を割いていたので戻るということを考えていなかった。

 そろそろ戻る方法も考えていかないといけない。俺は授業を聞きつつ、戻る方法を考えていた。

「じゃあ、ここ。一瀬、読んでくれるか?」

「はい」「へーい」

 俺と春陽は同時に返事をした。

「ああ、悪い。遥のほうな」

 教室内が笑いに包まれる。俺は顔が熱くなるのを感じ「すみません」と俯いた。

 春陽も笑いながら教科書の音読を始める。

 苗字が一瀬で被っていて助かった、と安心した。

 放課後、俺は図書室に向かった。入れ替わる系の本を読んで少しでも元に戻る方法の手がかりを探すことができれば、という考えだ。

「あれ、春陽先輩じゃないですか。珍しいっすね」

 適当に本棚を見ていると、声をかけられる。

 振り返ると、女生徒がいた。ショートボブで、春陽よりも頭一つ分くらい身長が低い。

「ああ……」

 彼女は雨宮香織。入学式の時に道に迷っているのを見かけて、道案内した子だ。それからたまに学校で会うと絡んでくる。

 春陽は香織のことをなんと呼んでいただろうか。俺が考えていると、香織が口を開いた。

「なんかの課題っすか?」

「いや、今日は違う」

「ふーん。先輩が図書室に来るなんて遥先輩になんか言われたんすか?」

「うん、まあそんな感じ」

 適当に返しておく。別に本が読みたいというわけでもない。

 というか、香織はこんなに春陽に対しての当たりが強かっただろうか。

 俺が香織と話している時と雰囲気がかなり違う気がする。

「まあ、遥先輩がいないならどうでもいいっすけど」

 そう言って香織は俺から離れていった。

 ため息を吐いて、本を眺めた。タイトルから入れ替わりに関して書かれているものは少ない。俺は何冊か借りると、家に帰った。

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