第11話 デートとファッション

 休日、俺は自分の家に来ていた。

「なんだよこれ!」

 部屋は無残に荒れており、俺が住んでいた頃の面影はない。

「ああ、ちょっと買い物とかしてたらな」

「ちゃんと掃除くらいやれよ! 俺の部屋だぞ!」

「悪い悪い」

 春陽は悪びれた様子もなく、ベッドに腰かけた。

「で、なんか用か?」

「ああ……」

 俺は自分の家にきた用を思い出した。春陽にデートの時どうすればいいかを聞きに来たのだ。

 それを春陽に伝えると、春陽はきょとんとした顔をして、笑いだした。

「なんだよそれ。深刻そうな顔したと思ったらそんなことか」

「そんなことってなんだよ。俺は真剣なんだよ」

「デートなんて、なんも考えることないだろ。楽しく女の子と遊んで終わりだよ」

「それが出来ねえから相談しに来たんだよ……」

「はぁ? お前、女の子と遊んでて楽しくねえの?」

「いや、楽しいけど……」

「じゃあそれでいいじゃん。何を悩むことがあるんだよ」

「相手は俺のことお前だと思ってんだぞ? 俺が良くても相手側からしたら楽しくないかもしれないだろ……」

「そりゃお前が楽しそうじゃないと相手も楽しくねえだろ。なんで仏頂面の男相手にデートしないといけねーんだよってなるだろ?」

 それに、と春陽は付け足した。

「どうせ戻ったら俺が女の子の相手するんだから、お前は女の子に慣れとけよ。葵ともまともに話せないんだからよ」

「うるせえ」

「あ、そういえば。俺、この前葵とデートしてきたぞ」

 思い出したかのように春陽が言った。一瞬、理解するのに時間がかかる。

 葵と春陽がデート? 何を言っているんだ。

「服買って別れたけどな。ちょっとはお前らの仲、進展したんじゃねえ?」

「何やってんだよ!」

「別に休みに遊ぶくらいいいだろ。告白したわけでもあるまいし」

「だからってお前……」

 葵に変なこと言ってないか、それだけ不安だった。

「お前だって女の子とデートしてたんだから、おあいこだろ?」

 それを言われると反論できない。確かに、俺は休日に春陽の姿で女の子とデートしてしまった。しかし、俺が葵を遊びに誘うなんて、今まで一度もしたことがない。話の重みが少し違う気がした。

「ああ、アレか。俺が葵と仲良くしてんのに嫉妬してんのか」

「なっ……」

 春陽は納得したように俺の肩を叩いた。

「安心しろって。別にお前から葵を盗ろうとなんてしてねえから」

「ちげえよ、バカ」

 恥ずかしくなって顔を逸らす。春陽はポンポンと肩を叩いて笑っていた。

「じゃあ、今日は帰るわ」

 俺は誤魔化すように立ちあがり、自分の家を出ようとした。

「ああ、ちょっとタンマ」

 呼び止められる。俺は春陽の方を見ると、ワックスを片手に、髪の毛を弄っていた。

「これから、髪とか弄ってくからな」

「そういうのはナシだろ。バレたらどうすんだよ」

「いやいや、お前もちゃんとやるんだよ。そうしたら、お前がオシャレに目覚めただけって思われるだろ?」

「別に俺は興味ないって……」

「でもお前、俺になりきるならワックスの使い方とか覚えといたほうがいいぜ? まだ誤魔化せてるけど、俺がそういうの気にしなくなったって噂になったらバレるかもな?」

「……わかったよ」

「よし。じゃあ今度、教えてやるからな」

 俺は渋々承諾して、自分の家から出た。結局、春陽の思い通りにことが進んでしまっている気がして、少し気分はよくない。

 俺はため息を吐いて春陽の家に向かった。

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