第10話 遥の休日

 目を覚ますと、俺は携帯を確認した。メッセージなどは来ていない。

「そりゃそうか……」

 遥が休みに遊びに出かけるという話はほとんど聞かない。

 いつもなら女の子とデートしているのに、今日は静かだ。たまにはこんな日も悪くない、と思いつつも、携帯をチラチラ確認してしまう。

「というか、あいつ俺たち以外の連絡先知ってんのか……?」

 不安になり、連絡先のリストを確認した。

「おいおい、まじかよ……」

 思わず呟いてしまった。遥の連絡先には、俺と葵、そして両親の連絡先しか入っていない。

「そうだ」

 葵に「今日暇?」とメッセージを送る。すぐに既読はついて「暇だけど」と簡素な返事が来た。俺はすぐに葵を遊びに誘うと、私服に着替えようとクローゼットを開けた。

「あいつ、全然服にこだわりねえんだったな」

 基本的に黒と白系の服やパンツしかない。俺は適当に服を選んで着替えると、洗面所に向かった。

 昔遥に渡したワックスが使われた形跡もなく置いてある。俺は少し手に取り、髪の毛に付けた。

「こんなもんか」

 髪の毛を少し整えるだけで、だいぶマシに見える。携帯を確認すると、葵から返事が来ていた。

 俺は少しニヤけながら、家から出て葵の家に向かった。

 

 

 葵の家に着くと、葵は家の前で携帯を見ていた。

「わざわざ家の前で待ってなくても……」

「だって家に居るとお母さんがうるさいんだもん……」

「勉強しろってか?」

「違うわよ。あんたと付き合ってるのか聞かれるの」

「なんだそれ。あ、じゃあホントに付き合ってみるか?」

「何よいきなり。春陽みたいなこと言い出して」

 俺っていつもこんなノリだと思われてるんだろうか。少しショックを受けて、葵に謝っておいた。

「それより、どこに行くの?」

「ああ、ちょっと服買おうと思って」

「何? 春陽に何か言われたの?」

「そうそう。あいつ、今日忙しいみたいだから、葵を呼んだんだよ」

 まあ、俺が遥に言ったも同然だろう。葵の言葉に俺は合わせて話を進めた。

「ふーん。まあ別にいいけど。それじゃあ行きましょ」

 俺は葵と並んでショッピングモールへと向かった。

「よし、適当に選ぶか」

 俺は意気込んで服を選び始めた。遥は白黒系の服ばかりだから、それと合わせても違和感がなく、かつオシャレに見える服やパンツ。別に一式揃えてしまっても問題はない。

 戻った時に遥が少しでもファッションを意識してくれればいいと、そこそこの量を買っておいた。

「結構買ったわね……」

 両手に余るほどの袋を手に持つ俺を、葵はちょっと引きながら見ている。

「これくらいはな」

「でもなんで急に服? あんた春陽に言われても気にしてなかったのに」

 確かに、遥は俺の話に聞く耳を持たなかった。なんで急にファッションに目覚めたのかそれっぽい理由を考えていると、葵は興味なさそうに「まあいいけどね」と言って俺から視線を外した。

「付き合ってもらったし、なんか奢るぞ?」

「別にいいわよ。それより、早くその荷物どうにかしなさい」

「確かに……」

 これを持ったまま移動するのは流石に疲れるだろう。しかし、どうにかするにしてもどこかに預ける場所なんてあるだろうか。

「今日はもう帰った方がいいんじゃない?」

「そうだよな……」

 葵の言う通りだ。実際このあとのことは何も考えていなかった。

「帰るか」

 俺は葵を家まで送ってから遥の家に向かった。

「ホントはもう少し遊んでいたかったんだけどな……」

 遥と葵の仲を進展させるいい機会だったのだが、結局遥の服選びに時間を取られてしまった。それに、俺も久々に葵と遊びたかったっていうのもある。

「ま、服は買えたしいいか……」

 葵とはまた暇があるときに遊べばいい。遥は誰かと遊ぶなんてことはほとんどなさそうだし。

 俺は布団に寝転がり、携帯を眺めた。

「はぁ……」

 これからの休日はどうしようか。そんなことを考えながら俺は眠りについた。

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