第9話 デート

 昼休み、俺はいつものように女の子に囲まれながら昼食をとっていた。

「ねえねえ、春陽君。今週の休み、遊びに行かない?」

「え、ずるい! 私も私も!」

 一人の女子が言うと、他の女子も俺に言ってきた。

「わかったわかった。みんなで遊びに行こうぜ?」

 結局断ることもできず、俺は週末に遊びに行く約束をしてしまった。

 

 

 

 そして、週末。俺は待ち合わせ場所にしていた駅の前に立っていた。

 先日、女子の名前は憶えてきた。長髪の清楚そうな方が真梨。短髪の活発そうな方が諒。他にも何人か出会う女子は名前と顔を一致させてある。知人が多くなると大変だ……。

「春陽君、もう来てたんだ!」

「いっつもちょっと遅れてくるのにー」

「たまにはな」

 約束しておいていつも遅れてくるとは……。春陽に少し呆れ、俺は女子たちの方を見た。

「じゃあ行こっか」

 俺は女子に連れられ、ショッピングモールに来た。

 待ち合わせをしただけで、どこに行くかは聞いていなかった。彼女たちは服を見始める。俺はそれを後ろから眺めていた。

「あー、これ可愛い!」

「これは諒に似合いそう!」

 二人とも、服を見て楽しそうに話している。

「春陽君はどれがいいと思う?」

 急にこっちに話を振ってきた。女の子の服なんて、正直よくわからない。

 俺は真梨に似合いそうな服を適当に指さした。選んだのは、白いワンピースだ。

「こういうの似合うんじゃないかな……」

「えー? ちょっと可愛すぎない?」

「そうか?」

 恥ずかしそうに真梨が笑う。

「じゃあ私は?」

 諒が不満げに俺に言った。

 俺は少し店内を周り、マネキンを指さした。

「ああいうの、似合うんじゃないか?」

 白のシャツに青のショートパンツ。活発そうな諒には似合いそうだなと思った。

「じゃあ私、アレにする!」

「え!? そんなんで決めていいのか……?」

「だって、春陽君が選んでくれたし」

 諒は笑って、店員を呼びに行った。真梨の方を見ると、まだ服選びで悩んでいるようだ。

 二人の買い物が終わり、次に俺たちが向かったのはファミレスだった。

 各々注文を済ませ、腰を落ち着ける。

「このあとどうしよっか」

「カラオケでいいんじゃない?」

「えー? 映画とかの方がよくない?」

「それなら、映画見たあとでカラオケ行こうぜ」

 言い争いを始める前に俺は割って入る。二人は「それならまぁ」と納得してくれたようで、次の目的地は映画館に決まった。

「そういえば春陽君、この前告白されたんだってね!」

 諒の言葉に俺は飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。

「え、なんで……」

「他のクラスの子が話してたよ? 昼休みに女の子呼びに来たって」

 やはり昼休みに行ったのは間違いだったか……。

「それで、付き合ったの?」

 真梨は目を輝かせて俺の方を見た。

「付き合ってないよ。てか、付き合ってたら今日断ってるだろ?」

「それもそっかー」

「春陽君、誰かと付き合う気ないの?」

「ないない。そういうの考えたこともないし」

 今の状況で誰かと付き合っても、中身は春陽ではない。春陽を好きだと言ってくれた相手にも失礼だろう。

「でも、いろんな女の子に愛想振りまいてたら、そのうち勘違いされちゃうかもよ?」

 諒がニヤけて言った。春陽に告白する女の子はだいたいそうなのだろうか。

「気を付けるよ」

 笑ってそう答え、ジュースを飲み干した。

 

 

 

「それじゃあねー」

「春陽君、今日はありがとね!」

 カラオケが終わり、俺たちは別れた。

 俺はため息を吐いて家に向かう。

 デートなんて初めてで、かなり緊張した。そもそもデートどころか、休日に出かけることがほとんどない。だいたい家で過ごしていた俺には刺激が強かった。

 映画館では諒が感動して泣きだしてしまったり、カラオケでは真梨がかなり歌が上手かったり。学校生活では見ることのできない彼女たちの一面も見れた。

 たまにはこういうのも悪くないかもしれない、とは思う。春陽は毎週こんなことをしているのかと少し尊敬した。

 家に着くと、着替えることもせずに布団に倒れ込んだ。

「寝よ……」

 想像していたよりもずっと疲れた。俺は目を閉じて、意識を手放した。

 

 


 

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