第8話 入れ替わった仕事

 俺は、教室に戻って春陽に告白の件を話した。

「お前、教室まで行ったのかよ」

 春陽は腹を抱えて笑った。

「放課後だと帰っちゃうかもしれないだろ……」

「そうだけどお前、めちゃくちゃ目立っただろ」

 春陽の言う通りだ。生徒からの視線が痛かった。

「まあ、遥にしては頑張ったんじゃね?」

「おい、名前……」

「おっと。春陽にしては頑張ったんじゃねえ?」

「言い直さなくていい……」

「楽しそうね」

 急に、葵が声をかけてきた。俺はビクッと体を跳ねさせ、葵の方を見る。

「あんたたち、今日も手伝いに来てくれない?」

「ああ、いいぜ」

 春陽が即答した。俺は春陽の肩を小突き、耳打ちした。

「おい、入れ替わったまま手伝いに行くつもりかよ」

「あ……」

 春陽は入れ替わっていたことを忘れていたようで、しまったという顔をした。

「何?」

 葵は俺たちを訝し気な表情で見る。春陽は「なんでもない」と葵の方を見た。

「そう? ならいいけど」

「もう何とかやるしかねえって……」

 春陽は俺に耳打ちしする。葵は頭の上にハテナを浮かべていた。

 

 

 

 放課後、俺たちは葵の家に向かっていた。

「はぁ……」

 俺は肩を落としてため息を吐き、春陽を睨んだ。

「悪かったって。しばらくは断るようにするからさ」

「頼むぞ、ホントに……」

 春陽は小さな声で悪びれもなく言う。この状況が本当にわかっているのだろうか……。

「あんたたち、様子がおかしいけどなんかあったの?」

「ん? なんもないけど……」

「ホントに? 別にいいけど、仕事はちゃんとやってよね」

「ああ、任せろって」

「別に用事があったわけでもないしな」

 葵の家に着くと、俺たちは喫茶店の制服に着替えた。

「流石に作業分担まで入れ替えるわけにはいかねえよな……」

「そうだな」

 春陽の言葉に俺は呟いて返した。いつもは俺が厨房のサポート、春陽が接客を行っている。しかし、今日は俺が接客しなくてはならない。

「まあ、なんとかなるだろ」

 春陽はそういって外に出ていった。俺は春陽を追うように外に出た。

「ごめんね、ちょっと前にも来てもらったのに……」

 葵の母親が申し訳なさそうに言った。

「大丈夫ですよ」

 俺が言うと、葵の母親はびっくりしたように俺を見て「春陽君、何かあったの?」と言ってきた。

「え……何もないですけど……」

 葵たちの春陽の見方にちょっと驚きつつも、俺はフロアに出た。

「すみませーん」

 フロアに出るなり、俺は客に呼ばれた。

「はーい、今行きまーす」

 俺はメモ用紙を持ち、テーブルに向かう。

「じゃあ、これとこれを……」

 客が指さしたものを流し書きでまとめる。

「お持ちしますので、少々お待ちください」

 俺は軽く客に向かって礼をして、その場から離れる。

「ちょっと、ちゃんと注文確認しなさいよ」

「あ、悪い。忘れてた」

「はぁ……何やってんのよ。ちょっとメモ貸して」

 葵は先ほどの客のところに行って、注文を確認していた。

「今回は間違ってなかったからいいけど、気を付けてよね?」

「ああ、ごめん」

 あまり接客の方はやらないものだから、ミスしてしまった。次から気を付けようと気持ちを切り替える。

 そして、その日は何とか大きなミスはなく終わることができた。

「聞いてよ遥。春陽がさぁ」

 葵が俺のミスを春陽に報告している。俺は壁にもたれかかってため息を吐いた。

「なんか様子が変なのよね。いつもだったらもっと……」

「今日はちょっと考え事しててさ。ごめんな」

 俺は誤魔化すように葵の言葉を遮った。嘘は言っていない。

「でも、遥も珍しくお皿割ってたわね……」

 春陽の方も少しトラブルがあったようだ。

「ぼーっとしてた。ごめん……」

 珍しく落ち込んだ様子の春陽を見て、俺は安心する。

「二人ともありがとうね。少ないけど、バイト代」

 葵の母親が裏から出てきて、俺たちに封筒を渡す。

「ありがとうございます」

 俺は封筒を受け取ると、カバンにしまった。春陽も封筒を受け取ってカバンにしまっている。

「それじゃ、俺たちは帰るわ」

 春陽が言って、俺たちは葵の家から出た。家から出るなり、二人してため息を吐く。

「今度から仕事はチェンジしようぜ……」

「ああ……」

 俺たちは新しくそう決め、家に帰った。

 

 

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