第7話 告白
「あ、あの。春陽君。ちょっといいかな」
放課後、俺が春陽と帰ろうとすると、一人の女生徒に呼び止められた。
「ん、ああ。何?」
「ええっと……できれば二人で話したいんだけど……」
女生徒は恥ずかしそうに顔を伏せた。春陽の方を見ると、早く行けと言わんばかりにしっしっと手を振っていた。
「ああ、わかった」
俺は女生徒に連れられ、屋上の前まで歩く。すると、女生徒は突然振り返り、俺に頭を下げた。
「春陽君、好きです! 私と、付き合ってくれませんか?」
顔を真っ赤にして、女生徒は顔を上げた。
「え、その……」
顔が熱くなるのを感じる。女子に告白された経験など、人生で一度もない。
しかも、相手は名前も知らない女子だ。春陽の知り合いなのかもしれないから、下手なことは言えない。
「ちょっと、考えさせてもらっていいかな……」
考えて出てきた言葉はそれだった。
「はい……」
しゅんとした様子で、彼女は頭を下げて帰っていった。
「はぁ……」
俺は壁にもたれて春陽にメッセージを送った。返事はすぐに来て「好きにしていい」とのことだった。
春陽もあの子のことは知らないらしい。
「どうすんだよ……」
俺は呟いて、学校から出た。
「あ、春陽君。今から帰り?」
「そうだけど、なんかあったか?」
昇降口で別の女子のグループの一人に話しかけられる。
「よかったら遊んでいかない?」
「ごめん、今日は用事あるから」
「そっか、残念」
「また今度誘ってくれ」
俺は手を合わせて誘いを断り、速足で学校から出る。もちろん、用事などない。
春陽として行動するのにまだぎこちない部分が多すぎる。今遊びに行ってもボロが出るだけだろう。
俺は春陽の家に戻ると、散らかった部屋を見てため息を吐く。
「片付けるか……」
そうしていた方が気が紛れる。俺は春陽の部屋の掃除を始めた。
だいたい片付いた時、告白された時のことがふと頭をよぎった。
あまり知らないはずの俺に告白してきた女の子。断られることを覚悟したうえでのことだったんだろう。
そう思うと、無下に断ることができそうもなかった。しかし、今俺は春陽の姿だ。
もし元に戻ってしまった時、あの子と付き合っていたら春陽はどうするのだろうか……。
「好きにしていい、じゃねえよ。あいつ……」
俺は春陽の悪態をついて掃除に戻る。
結局、告白の答えはまとまらなかった。
「結局、どうすんだよ」
朝、教室に着くと春陽がニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。
「決まってない」
「はぁ? なんだよそれ。お前、このまま返事しないつもりかよ」
「ちゃんと考えるよ」
「お前があの子と付き合いたいかそうじゃないか。それだけだろ?」
「そういう話でもないだろ……」
「お前は恋愛に何を望んでんだよ……。恋愛漫画の読み過ぎなんじゃねえの?」
春陽にボコボコに言われ、なんだか落ち込む。
「付き合ってから仲良くなる場合もあるだろうし、お前の好きに決めろよ。できれば今日中に」
「今日中!?」
「そうだよ。あの子にずっと断られるかもってモヤモヤさせることになるんだぞ。自分だけじゃなくて、相手のことも考えてやれ」
「わかったよ……」
俺はそういって机に突っ伏した。あの女子のことを考えながら。
昼休みになり、俺はあの女子を探しに教室を出た。連絡先くらい聞いておけばよかったと後悔する。
同学年の教室を全て回り切り、最後の教室にたどり着いたところで、彼女を見つける。
「あ、春陽君……」
「ごめん、連絡先とかわかんなかったから直接クラスまで来ちゃった」
「そ、そんなの別にいいよ……」
顔を赤くして、俯いてしまった。教室の視線が俺たちに集まっている。
流石にここで返事をするのはまずいだろう。
「ちょっと、外出ようか」
「うん」
他の生徒の視線を感じながら、俺たちは前に話した屋上の前まできた。
「ごめんな、いきなり教室まで行っちゃって」
「全然大丈夫です……それより……」
「ああ、昨日の返事をしようと思ってさ」
彼女は緊張した面持ちで俺を見つめた。
「俺は、君とは付き合えない」
「そう、ですよね……」
「君のこと、何も知らないしさ。だから、まずは友達になろうぜ?」
俺がそういうと、彼女は笑顔になってうなずいた。
「じゃあ連絡先、教えてもらえるか?」
「はい」
俺たちは携帯番号を交換して別れた。
彼女には悪いことをしてしまった。連絡先がわかっていれば、こっそり呼び出すこともできたのに。それに、昼休みという人が集まるタイミングで呼び出してしまったことも悔やんでいた。
「春陽だったらもっと上手くやってたのかな……」
俺はため息を吐いて教室に戻った。
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