魔王な勇者の復讐譚

げんぶ

第1話 謎の女

 まだ肌寒い風が吹く晩の事だった。

 叔父さんの酒場の手伝いをしていた時と記憶している。

 そんな晩に僕はこんな体験をした。


 「ごめんください」


 鈴が転がるような声が聞こえてきた事で騒がしい酒場が一瞬静まり返る。

 全員が声の出所に視線を向けていた。

 勿論、僕もそちらへと眼を向けた。

 鼻から下を隠した女性が入口に佇んでいた。


 「こんな五月蠅い野郎共の集まる酒場にどんなご用件でしょうか」


 普段通りのおじさんの声にハッと我に返る。

 叔父さんに声を掛けられた女性は背中に背負ったものを下すと、背負った物の布を取っ払った。


 「私は旅の『吟遊詩人』です。ここで歌わせてはもらえませんか?」

 「そりゃあ、願ってもねえことですが。お代は?」

 「次の街までの旅費で十分でございます」

 「次の街ってーと、ニギの街か」

 「ええ」

 「どの位いるんだい」

 

 叔父さんがそう聞くと女性は少し考え込み、「2、3日位ですね」と答える。


 「分かった。最終日に声を掛けてくだせえ。その時にお代を差し上げますんで」

 「ありがとうございます」


 そう言うと女性はカウンターの近くに座ると楽器を太ももに載せる。


 「では、お聞きください。復讐の為に魔王を倒した青年の物語を」


 女性はそう言って、弦を爪弾いた。

 その瞬間、空気が一変され、誰もがその声に魅了された。


 長い長い物語の始まり。

 そして、復讐の狼煙が再び上がる。

 それを知るはベールの下で口元を歪める女のみ。


 それではしばしお付き合いいただこう。

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魔王な勇者の復讐譚 げんぶ @genbu_zeke

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