10年前に戻れたので、振られた初恋の人に告白してみた

ザンブン

10年前に戻れたので、振られた初恋の人に告白してみた

「ごめんなさい。ゆっきーのおかげで、楽しい高校生活だったよ。ゆっきーのこと好きだったけど、今は付き合っている人がいるの。正樹って言ってね……」


 そのあとのことは何も覚えていない。

 気がついたら、借家のアパートに帰ってきていた。


 同窓会というほどでもないが、高校時代に仲が良かったメンバーで久しぶりに集まろうと誘われたときは、もしかしたらと思っていた。

 千尋とは男友達のような接し方をしていたので、周りからはお似合いだと言われていたが、告白する勇気がなく卒業後は疎遠になってしまった。


 もう終わった恋だったと思っていたが、再会したらあわよくばと思い告白した。

 もちろん、振られる可能性の方が高いことは分かっていた。

 振られても学生時代と違って、次の日に教室で顔を合わせる必要もないので、傷つかずに済むと思って告白をした。


 だけど、千尋は「ゆっきーのこと好きだったよ」と言いながら、告白を断った。

 じゃあ高校時代に告白していれば、付き合えたのか?

 そうしていれば、彼女が楽しそうに紹介する彼氏は、俺だったかもしれない。

 そう考えたら、急に苦しくなった。

 俺のこれまでの人生が間違いのように感じてしまった。

 そんなことを何度も繰り返し考えながら、そのまま眠ってしまった。


 ***


 ブ~、ブ~。

 携帯電話の目覚ましの音で目が覚めた。

 スマートフォンのモニターを見ようとしたら、なにやらゴツゴツしている。

 ガラケーじゃないか。

 昨日、誰かのと間違えたのか。


 違和感は他にもある。

 寝ていたベットが妙にしっくりくる。

 朝日の射し込む部屋を見渡すと、なんと実家の部屋じゃないか。

 昨日、家までの帰り道は覚えていないが、確実に1人暮らしのアパートで寝たはずだ。


「雪雄いつまでも、寝てるの学校に遅刻するよ」


 聞きなれた母さんの声が、思考の渦から引き離す。


 ひとつの考えが、思い浮かんだ。

 ドラマや、小説なんかであるシチュエーションのひとつだ。

 学生時代に戻ってる。


 ガラケーを開いて日付を確認する。

 理由は分からないが、すぐに現状を理解した。

 今は高校2年秋だ。

 千尋と1番仲がよく、受験勉強などで次第に離れていく前の時点だ。


 知りたいことはたくさんあるけど、今はそんなことどうでもいい。

 千尋に告白しよう。


 家族と当たり障りない会話をしながら支度をする。

 授業道具は学校のロッカーの中にあるので、荷物はほとんどない。

 制服に着替えて、鞄に財布と携帯が入っていることを確認したら、すぐに出発だ。

 9年ぶりの高校だが、10年前にそのまま戻っているせいかあまり懐かしく感じない。


 教室に入ったら、千尋が先に来ていた。


「ゆっきー、おはよう。今日の5限の課題やった?」


 振られる前の千尋である。

 正樹とかという奴と付き合う前の彼女だ。

 男友達のように接し、毎日のように一緒に騒いだ彼女だ。


 朝の教室には他にも人がいる。

 告白は後にしよう。


 授業の内容はまったく頭に入らず、ただ告白の計画を練っていた。

 いろいろ考えたが、どうせ向こうも俺に対して好意を抱いているはずなので、シンプルにいこう。


 放課後に教室で2人だけで、話したいとメールした。

 返事は「いいよ」とひと言だけ書かれていた。


 放課後の教室、まだちらほらと人がいる。

 課題をやるふりをしながら、俺と千尋以外が帰るのを待つ。


 やっと、最後の1人が教室を出た。

 千尋の方を向くと、無言でこっちを見つめている。

 彼女だって、俺からの告白を期待しているのはずだ。

 放課後に残ってくれた時点で、脈はあるはずだ。


「千尋、好きだ。恋人になってほしい」


 しかし一瞬、彼女の表情に陰りが見えた。


「ごめんなさい。ゆっきーとは付き合えないわ」


 どういうことだ。

 千尋は、俺のことが好きじゃなかったのか。

 

 せっかく高校時代に戻れて、告白のチャンスを得たのに。

 タイミングなのか?

 2年の秋はまだ早かったのか。

 そんなはずはない!

 修学旅行は済んでいるし、他のイベントは思い当たらない。

 3年は受験で忙しくて、進展はなかったはずだ。


「ゆっきーは小説とか読むと、主人公に自分を重ねるタイプでしょ。どうして自分だけが特別だと思うの?」


 冷やかな目で、こちらを見つめながら言ってきた。

 彼女の言葉で、急激に体温が落ちていくのを感じる。

 10年前に戻れたことに舞い上がって、彼女に告白することだけを考えていた。

 それ以外のことはすっかり後回しにしてしまっていた。

 冷静に考えて見ると、今日の彼女はあまりにもしっくりきていた。

 まるで成人した後の俺が、接していた思い出の中の彼女だ。


「他にも10年前から来た人がいるとは考えなかったの? 私にはすぐにわかったよ。だって本当なら、ゆっきーは告白してくれなかったもん」


「この時代の私なら、ゆっきーの告白を受けると思った? 本当は告白する勇気なんてないくせに。私がゆっきーのことを好きだと知って告白するなんて、それは虫が良すぎるよ」


「私はもう1度、正樹くんの彼女になるために、前の私の人生をなぞるの。だからゆっきーとは付き合えない」


「それに私が好きだったのは、高校時代のゆっきーよ。今の卑怯者のあなたじゃないわ。明日からは普通に友達を演じてね。そうしないと、未来が変わっちゃうかもしれないでしょ」



 彼女の屈託のない笑顔は、遠い思い出の日のものとまったく同じだった。

 でも俺には作り物のようで、とても冷たく感じた。


 ***


 ブ~、ブ~。

 携帯電話の目覚ましの音で目が覚めた。

 最近、機種変更をしたばかりのスマホだ。


 携帯の画面を見たら、久しぶりに会った千尋に振られた次の日だった。

 やけに鮮明な夢だったと思う。


 10年前に戻りたいという、俺の願望があんな夢を見せたのか、じゃあ彼女にもう1度振られるのも、俺の願望だったのか。


 どう行動すれば、正解だったんだよ。

 だけどもうやり直すことはできない。


 そうだ、会社に行かなくちゃ。


 ***

『あとがき』

いかがでしたか。

私自身の失恋をモデルに書かせていただきました。

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